Fukumoto International Patent Office


外国特許の手引き〜米国出願〜



          福本 2008年4月8日作成  2012年11月更新

 米国出願は、個別出願(パリルート)、PCT出願の何れを通じてもすることがで
きます。個別出願を例に挙げると、米国特許商標庁(USPTO)へ出願書類を提出
すると、方式審査が行われた後、日本や欧州とは異なり、審査請求をしなくても特許
性についての審査官による実体審査が行われます。

 審査の結果、出願が特許のための要件を充足しない場合には、その旨の通知が出願
人様に送られます。出願人様は、これに対して意見を述べたり、明細書等を補正した
りすることができます。この通知には、日本の「最初の拒絶理由通知」に対応する
「ファースト・オフィス・アクション」と、「最後の拒絶理由通知」に対応する「フ
ァイナル・オフィス・アクション」とがあります。日本と同様に、ファイナル・オフ
ィス・アクションの後の補正では、新規事項の追加が許されないだけでなく、補正で
きる範囲が著しく制限されます。

 なお、実体審査開始後に、まず限定要求(Requirement for Restriction)が出願
人様に送られることがあります。これは、複数のクレームが独立した別個の発明に跨
っている、と審査官が判断したときに、発明毎にグループ分けしたクレーム群のうち
の1つを選択するように出願人様に要求するものです。出願人様は限定要求に反論を
することもできますが、反論の有無に関係なく、まずは何れかを選択する必要があり
ます。選択されたクレーム群について、実体審査が行われます。

 拒絶の理由が発見されなかったり、アクションへの応答により拒絶の理由が解消さ
れたりすると、日本の特許査定に対応する許可通知(Notice of Allowance)が出願
人様に送られます。所定期間内に特許料(Issue Fee)を納付することにより、特許
が発行(Issue)されます。

 ファイナル・オフィス・アクションへの応答にも拘わらず、拒絶の理由が解消しな
いときには、日本の拒絶査定に対応するアドバイザリ・アクション(Advisory
Action)が、出願人様に送られます。出願人様は、アドバイザリ・アクションを見
て、継続審査請求(RCE)、継続出願(CA)、一部継続出願(CIP)、分割出
願(DIV)、審判請求などの手続を採ることができます。

 なお、これらの手続は、アドバイザリ・アクションが送られる時期とは無関係に、
ファイナル・オフィス・アクションから6箇月を超えてすることはできません。この
ためこの期間を引き延ばすためだけの目的で、審判請求を行うこともあります。審判
請求により2箇月の期間引き延ばしが可能となり、さらに料金納付により最長7箇月
までの期間引き延ばしも可能となります。

 継続審査請求(RCE)は、料金を納付することにより、審査のやり直しを求める
ものです。継続審査請求をすると、ファイナル・オフィス・アクション後の補正とは
異なり、新規事項を追加しない範囲で補正することが、再び可能になります。

 分割出願(DIV)は、限定要求への応答で選択しなかったクレーム群について、
元の出願の出願日の利益を維持しつつ新たな出願をするものです。元の出願から新規
事項を追加することは許されません。

 継続出願(CA)は、限定要求とは無関係に、元の出願のクレームとは別のクレー
ムについて、元の出願の出願日の利益を維持しつつ、新たな出願をするものです。元
の出願から新規事項を追加することは許されません。限定要求とは無関係に自発的に
行う分割出願に相当します。

 一部継続出願(CIP)は、継続出願(CA)と同様に元の出願のクレームとは別
のクレームについて、元の出願の出願日の利益を維持しつつ、新たな出願をするもの
です。ただし元の出願から新規事項を追加することが可能です。追加された新規事項
については、元の出願の出願日の利益は受けられません。

 継続審査請求(RCE)は、通常の場合、登録料(issue fee)の納付まで行うこ
とができます(米国特許法施行規則1.114(a))。分割出願(DIV)、継続出願(C
A)、一部継続出願(CIP)は、通常の場合、特許の付与(patenting)まで行う
ことができます(米国特許法120, 121条;米国特許法施行規則1.53(b))。したがっ
て、これらは許可通知の後に行うことも可能です。

 継続審査請求(RCE)、分割出願(DIV)、継続出願(CA)、一部継続出願
(CIP)は、回数に制限がなく、何度でも行うことができます。RCE、CA、C
IPの回数を制限する特許法施行規則改正案(2007年11月1日より施行予定)が米国
特許商標庁から提出されましたが、バージニア州東部地区連邦地方裁判所による仮差
止(2007年10月31日)及び特許商標庁側の敗訴判決(2008年4月1日)により、この改
正案は2008年4月現在、宙に浮いている状態です。

 審判請求(Appeal)は、出願人様が審査官の最終的判断に不服がある場合に、特許
審判インターフェアレンス部(BPAI)に審理を求める手続です。日本の拒絶査定不服
審判に対応しますが、日本とは異なり、審判請求に伴って補正をすることは認められ
ません。

♪ 米国特許制度には、他の国々とは違ういくつかの特徴があります

(1)先発明主義:
 出願日ではなく、発明日が最先の者に対して特許を与える考え方です。したがっ
て、新規性(novelty)及び非自明性(unobviousness;我が国の進歩性に対応)は、原
則として出願日ではなく発明日を基準に判断される建前になっています。ただし、発
明日の立証責任は発明者が負うものであり、立証がない限り出願日が発明日であると
して審査がなされます。通常は、出願日を基準に審査が進行しますので、先発明主義
を意識する場面は余りないのでは、と思われます。

 先発明主義のために出願が遅れるという弊害を是正するために、発明の公表、販売
の1年後までに出願することが求められます(米国特許法102 (b))。逆に言えば、
発明の公表、販売があっても、1年間は出願のための猶予期間(グレースピリオド)
が与えられます(「ワンイヤールール」と称されます)。日本などの他国に比べて、
猶予期間が長く、しかも販売行為を含めて幅広く猶予期間を認めているのは、先発明
主義が根本にあるから、と言えます。

 なお、出願日が2013年3月16日以降の米国出願については、先出願主義へ原則的に
移行する改正米国特許法が適用されることになります。ただし、ワンイヤールール
は、改正法施行後も残ります。

(2)発明者様が出願すべきこと:
 米国では発明者様ご自身が特許出願しなければなりません(米国特許法102
(f))。このため出願は、原則として発明者様の名義でなされ、企業等の譲受人様は
譲渡証を添付することにより、発明者様による出願を引き継ぐ形式を採ることになり
ます(ヘンリー幸田「米国特許法逐条解説」第4版p.76参考)。

 ただし、改正米国特許法の施行により、出願日が2012年9月16日以降の米国出願に
ついては、日本や他の国々と同様に、譲受人(会社など)が出願人となることができ
るようになりました。PCT出願については、米国への移行の日ではなく、国際出願
日が2012年9月16日以降の出願が対象となります。

 なお、米国代理人によりますと、出願日が2012年9月16日以降の米国出願であって
も従来通りに、発明者から譲渡された出願について、会社等の譲受人ではなく、発明
者を出願人として出願することも許されるとのことです。そのようにした場合には、
米国代理人への委任状は、譲受人と発明者の何れの署名で交付しても支障ない、との
ことです。

(3)宣言書を提出すべきこと:
「米国出願に準備すべき書類〜直ぐに役立つ米国出願への対処法〜」ご参照 (4)情報開示陳述書(IDS)を提出すべきこと: 「米国出願に準備すべき書類〜直ぐに役立つ米国出願への対処法〜」ご参照 (5)発明者様の認定を厳格にすべきこと: 「米国出願に準備すべき書類〜直ぐに役立つ米国出願への対処法〜」ご参照 (6)仮出願制度:  仮出願(provisional application)とは、クレームが不要であるなど、形式的に 簡略化された明細書・図面で仮に出願するものです。仮出願後1年以内に、仮出願に 基づく優先権を主張して通常の出願(nonprovisional application;非仮出願)をす ることを要します。仮出願は、日本語でもすることができ、その翻訳文は、非仮出願 の後に提出することができます(米国特許法施行規則1.52(d)(2);1.78(a)(1) (5)(iv))。 (7)外国語による出願:  通常の出願(非仮出願)についても、英語以外の言語で提出することができます。 出願後に、出願人様に対して期間を指定して翻訳文の提出が求められます(米国特許 法規則1.52(d)(1))。なお、日本にもこれに対応する「外国語書面出願」の制度があ ります。 (8)継続審査請求(RCE)・継続出願(CA)・一部継続出願(CIP):   (上記の通りです) (9)制限された出願公開制度: 日本などの他国と同様に、出願日(優先権主張をしておれば先の出願の日)から18箇 月経過後に出願内容が公開されます。日本と同様に、出願公開後に発明を実施する者 があれば、警告することにより実施料を請求する権利が発生します。この請求は、特 許の発行後にのみすることができます。米国では、米国以外への出願がない場合に は、出願人様の希望により出願公開しないようにすることも可能であり、この点で他 国の出願公開制度とは異なり、制限的であると言えます。 (10)参照組み込み(incorporation by reference)という制度: 「米国出願に準備すべき書類〜直ぐに役立つ米国出願への対処法〜」ご参照


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