Fukumoto International Patent Office


外国特許の手引き〜PCT出願(国際出願)〜



            福本 2008年4月8日作成・同年11月25日補充

 PCT出願(国際出願)は、特許協力条約(PCT)に基づく出願を言います。P
CT出願は、受理官庁としての役割を果たす自国の特許庁に、出願書類を提出するこ
とによってすることができます。PCT出願をすると、出願の日(「国際出願日」と
言います)に全てのPCT締約国に対して出願したものとみなされます。

 ただし、国際出願日(優先権の主張をする場合には先の出願の日)から30箇月以
内に、特許を取得したい国の特許庁に、その国の言語による翻訳文を提出するととも
に、国内移行の手続をする必要があります。この手続をしなかった国については、出
願はなかったものとみなされます。特許すべきか否かの審査は、国内移行をした国毎
に行われます。

 先に自国で出願をし、その12箇月以内にパリ条約に基づく優先権を主張してPC
Tルートによる出願することもできます。そのようなPCT出願のやり方の方が、む
しろ多いと言えます。パリルートと同じく、優先権を主張すると、先の自国出願に記
載された発明と同じ発明については、先の出願の日に出願したのと同等に扱われま
す。

PCT(特許協力条約)は1978年に発効した条約で、締約国は、2008年6月
現在139ヵ国となっています。PCT締約国は、パリ条約の同盟国に限られます。
WTO加盟国であってもパリ条約の同盟国でなければ、PCT締約国となることはでき
ません。また、パリ条約同盟国であっても、PCT締約国でなければPCT条約の適
用はありません。

♪ PCT出願の利点

(1)PCT出願は、日本語で日本特許庁にすることができます。このため、各国に
個別に出願する形態に比べて、出願時の費用を格段に安くすることができます。

(2)PCT出願の後約4箇月以内(ただし、優先権を主張しない場合には約9箇月
以内;優先権を主張する場合でも先の出願から5箇月以内の早期に出願したときは先
の出願から約9箇月以内)に日本国特許庁より国際調査報告(先行技術調査に関する
報告書;「サーチレポート」と称される)とともに国際調査見解書(特許性に関する
意見を述べたもの)が作成され出願人様に送付されます。出願人様は、国際調査報告
及び見解書によって、指定国への移行手続の可否について、ある程度の目安を手にす
ることができます。

(3)国際調査報告及び見解書の送付日後3箇月の経過前(ただし、優先権を主張し
ない場合には出願から22箇月以内;優先権を主張する場合には先の出願から22箇
月以内であればOK)に、国際予備審査機関としての日本国特許庁に対して国際予備
審査請求を行うことができます。したがって、出願と同時にすることも可能です。し
かし、通常は国際調査報告及び見解書を受け取った後で、しかも、否定的な見解が示
された場合に行います。

 予備審査請求とともに、答弁書・補正書を提出することができます。それにより、
答弁書・補正書を考慮した予備審査を受けることができます。予備審査の結果、国際
予備審査報告が作成され出願人様に送付されます。出願人様は、答弁書・補正書を反
映した予備審査の結果に基づいて、所望の指定国へ移行手続をすべきか否かを判断す
ることができます。

 予備審査請求ができる期間内に予備審査請求をしない場合には、国際調査見解書は
「特許性に関する国際予備報告(特許協力条約第1章)」と題を付して、スイス国に
置かれる国際事務局からあらためて出願人様に送付されます。中身の同じ書面が、2
箇所から届くことになります。

 一方、予備審査請求したときに、国際予備審査機関から送付される国際予備審査報
告には、「特許性に関する国際予備報告(特許協力条約第2章)」と表題が付されま
す。「特許性に関する国際予備報告」は何れも、拘束力のない予備的な見解に過ぎ
ず、特許性の最終判断は国内移行した各国特許庁に任されています。しかし、各国特
許庁は国際予備報告を審査の参考にすることができますので、その影響力は否定でき
ません。

(4)国際出願日(ただし、優先権を主張した場合には先の出願の日)から30箇月
(2年6箇月)以内に、権利化を望む国(「指定国」と言います)の特許庁(「指定
官庁」と言います)への国内移行手続きを行うことになります。その際には、出願書
類(明細書、請求の範囲、図面の中の説明、要約)の翻訳文を各指定官庁に提出する
必要があります。翻訳文には正確な訳が求められます。

 逆に言えば、どの国で特許を取るか、どの国に翻訳文を出すかを見極めるのに、長
い時間が与えられます。また、国毎の翻訳に要する費用負担を先延ばしにすることが
できるとも言えます。ただし、翻訳に要する時間、手続に要する時間を考慮して、遅
くとも「30箇月」期限の3箇月前には、着手する必要があります。

 国内移行後は、各国において通常の国内出願と同様の手続が進行します。なお、
国内移行手続期間を30箇月とする代わりに、欧州特許庁(EPO)のように、31
箇月とする指定官庁もあります。

♪ 国際調査・国際予備審査とは...

 国際調査とは、PCT出願について国際調査機関が関連のある先行技術を発見する
為に行う調査で、すべてのPCT出願が対象となります。調査の結果を示す国際調査
報告とともに、特許性に関する意見を述べた国際調査見解書が作成され、出願人様に
送付されます。

 国際予備審査とは、PCT出願について国際予備審査機関が、請求の範囲に記載さ
れている発明が、新規性、進歩性、産業上の利用可能性を有するかについての見解を
示す為に行う審査です。国際調査と違って国際予備審査の請求がされた場合だけ行わ
れます。

 日本特許庁に日本語でPCT出願をした場合には、日本の特許庁が国際調査機関及
び国際予備審査機関となります。日本特許庁に英語でPCT出願をすることもできま
す。この場合には、国際調査機関及び国際予備審査機関として、日本特許庁と欧州特
許庁(EPO)との何れかを選択することができます。

 国際調査報告を受けた後に、請求の範囲について補正をすることができます(「1
9条補正」と言います)。19条補正は、国際調査報告の送付日から2箇月以内、又
は国際出願日(優先権を主張する場合には先の出願日)から16箇月以内、のいずれ
か遅く満了する期間内に、1回に限って行うことができます。また、国際予備審査の
請求の際には、請求の範囲、明細書及び図面について補正をすることができます
(「34条補正」と言います)。いずれの補正も、国際出願についての補正によりす
べての指定国に対して補正したこととなるので、補正のための重複的な負担が軽減さ
れます。

 「19条補正」には「19条補正についての説明書」を付することができ、「19
条補正」とともに、あるいは単独で「非公式コメント」を提出することもできます。
また、「34条補正」とともに、あるいは単独で「答弁書」を提出することもできま
す。国内移行手続の際には、出願書類の翻訳文に加えて、「19条補正」、「19条
補正についての説明書」、「非公式コメント」、「34条補正」の翻訳文も併せて提
出することになります。

 国際調査報告や国際予備審査報告により特許性が無いと判断され、出願人様が納得
できる場合には、各国への移行手続きを断念することにより無駄な出費を避けること
もできます。

♪ 国際公開とは...

 国際出願の内容は、出願日(優先権の主張をする場合には先の出願の日)から18
箇月経過後に、国際事務局によって公開されます。これを国際公開といいます。国際
公開では、国際調査報告、19条補正、19条補正の説明書も、併せて公開されま
す。

♪ 国内公表、再公表とは...

 日本特許庁に国内移行した国際出願は、日本特許庁により公開されます。外国語で
された国際出願については、提出された日本語翻訳文が公開されます。これを国内公
表といいます。「特表2007−500001」のように公表番号が付されます。年
ごとに、「000001」からではなく、「500001」から付番することによ
り、通常の公開公報「特開2007−123456」などとは、番号だけでも区別が
つくようになっています。

 日本語でされた国際出願についても、日本特許庁へ国内移行した後に日本特許庁に
より公開されます。これを再公表といいます。国際公開番号「WO2005/012
345」がそのまま「再表2005/012345」のように付番されます。再公表
は、既に日本語で国際公開されている内容を、日本特許庁があらためて公開するもの
です。同一情報の二重公開になりますので、特許法には規定がなく、日本の公衆の便
宜を図る意味で、特許庁がいわばサービスとして行っているものです。

 なお、日本では、国際予備審査請求の有無に関わりなく国内移行手続の期限が一律
に「30箇月」となったのは、平成14年9月以降です。このときから、「30箇
月」期限の直前の2箇月以内に、国内移行の意思表示をする国内書面を提出した場合
には、この提出日から2箇月以内に翻訳文を提出できるようになりました。そのた
め、外国の出願人様が国内移行手続の期限直前に日本への国内移行を決断された場合
でも、日本語の翻訳文を作成する時間を確保できるようになりました。


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