Fukumoto International Patent Office


英語クレームの基本の形〜直ぐに書ける英語クレームの手ほどき〜



          福本 2008年2月15日作成 2010年9月更新

 外国出願のクレーム(特許請求の範囲)は、構成要件列挙型で記載するのが適切で
す(「外国出願を見据えた特許明細書の書き方」(5)(i)ご参照)。以下に、基本の形
の一例を示します。右肩の(1)(2)・・・等の数字は、後の解説の番号に対応していま
す。

1. An ABC apparatus(1)(2) comprising(3):
an XXX(4) including(9) (11) an X1 for doing…, the X1 being provided with…(8)
(10)(11);
a YYY(4) (being) (9) (11) connected with the X1 for doing…; and
a ZZZ(4) being(9) (11)... (, wherein
the XXX is..., and the ZZZ does...) (6).

【請求項1】
〜を有するX1を含み、〜するXXXと、
前記X1に接続され、〜するYYYと、
〜であるZZZと、
を備え(、前記XXXは〜であり、前記ZZZは〜す)るABC装置。


2. The ABC apparatus(1) according to claim 1, wherein the YYY is... (7).

【請求項2】
前記YYYは〜である、請求項1に記載のABC装置。


3. An ABC method(1) (2) comprising(3) the steps of:
providing a PPP(5);
feeding the PPP with a QQQ(5), the QQQ being…(8) (11); and
implementing an RRR by use of the PPP fed with the QQQ(5) (, wherein
the step of implementing the RRR is…) (7).

【請求項3】
PPPを準備する工程と、
前記PPPに、〜であるQQQを供給する工程と、
前記QQQが供給された前記PPPを用いて、RRRを実行する工程と、
を備え(、前記RRRを実行する前記工程は〜であ)るABC方法。


(解説)
(1) クレーム1の“an ABC apparatus”は、発明の名称を表します。クレーム2の
“the ABC apparatus”、クレーム3の“an ABC method”も同様です。

(2) クレーム1や2のような独立クレームでは、発明の名称に、前提となる修飾語を
付加することもできます。それらはまとめて、前提文 (preamble) とも称されます。

(3) クレーム1の“an ABC apparatus”に続く“comprising(備える)”は、前提文
と、以下に列挙される要素とをつなぐ、つなぎ言葉 (transitional phrase;「移行
句」と訳されています)であり、上記の例では、動詞の分詞形で表現されています。
この分詞は、形容詞的用法であって、名詞である発明の名称を修飾するものとなって
います。クレーム3の“comprising(備える)”も同様です。

(4) クレーム1では、つなぎ言葉“comprising”の後に、3つの構成要素、XXX、
YYY、及びZZZが列挙されています。発明の装置・方法等は、これらの3つの要素を備
える、という基本構造になっています。構成要件列挙型と呼ばれる理由です。

(5) クレーム3でも同様に、“comprising”の後に“a step of 〜ing (〜する工
程)”が列挙されていて、構成要件列挙型となっています。“a step of”を反復す
る代わりに、最初にまとめて“the steps of”と記載し、後は、動名詞“〜ing”だ
けを列挙する書き方の方が多いようです。

さらに昨今では、“the steps of”すら記載せずに、“comprising:”の後に動名詞
“〜ing”を直接列挙する書き方が目立つようになってきました。日本語では、「〜す
ることと、〜することと、〜することと、を備えるABC方法。」という記載となります。
このような記載が好まれる理由として、"the steps of"を用いた場合には、方法を構
成する各行為が、“step”として他とは明瞭に区別され、順を追って段階的に行われ
るもの、と限定解釈される場合があるから、と一米国代理人から伺っております。

(6) クレーム1に例示するように、クレームの後の方に説明を付加するのに、
“wherein”で導かれる節 (clause) を用いることができます。wherein節の中は、主
語、動詞を要する文の形となります。whereinは、in whichと同義で、関係副詞とな
ります。従って、whereinという単語は、関係詞節であるwherein節の中では、副詞と
して機能します。一方、wherein節は、関係詞である以上、文全体(クレーム1の全
体)の中で、文法上、形容詞節という位置を占めることになります。しかし、それが
修飾すべき先行詞は、特定の名詞ではなく、文全体となります。従って、wherein節
は、意味上は、副詞節として機能するものです。副詞節である、と理解する方が、
wherein節の実感に合っており、whereinがよほど使い易くなるものと考えます。

(7) クレーム2,3のwhereinも同様です。従属クレームでは、クレーム2に例示す
るように、新たな限定事項は、wherein節で記載することが多いように思います。

(8) 付加的な説明を、wherein節によらずに、あるいはそれと共に、クレーム1の
“the X1 being provided with…”に例示するように、動詞の分詞形を有する句によ
って付加することもできます。この例では“being”が動詞の現在分詞形であり、そ
の直前に置かれる“the X1”が、分詞の意味上の主語となっています。この現在分詞
は、文全体を修飾するものですので、副詞的用法となります。現在分詞の副詞的用法
ですから、文法上、この分詞句は分詞構文に該当します。クレーム3の“the QQQ
being…”も同様です。

このように、英語クレームでは、分詞構文を使って、「前記〜は〜であり、前記〜は
〜し、前記〜は〜である・・」と、いくつでも付加的説明を並べることができます。
このためクレームは、英作文に慣れた人であれば、日本語よりも英語の方がむしろ書
き易い構造になっている、と言うことができます。

(9) 動詞の同じ“〜ing”形であっても、例えばクレーム1の“an XXX including”
の“including”、“a YYY (being)”の“being”は、副詞的用法(分詞構文)では
なく、形容詞的用法になります。“including”は“an XXX”を修飾し、“being”は
“a YYY”を修飾するものとなっています。形容詞的用法では、“a YYY (being)
connected”のように、過去分詞や形容詞を補語とする“being”は、省略され、“a
YYY connected”のように記載されるのが通例です。

(10) 一方、副詞的用法(分詞構文)では、クレーム1の“the X1 being provided”
のように、過去分詞や形容詞を補語とする“being”であっても、省略しないのが通
例です。文法上、絶対誤り、という訳ではなくとも、“being”を省略すると、不自
然で意味が把握しづらくなります。このように、クレームでは、2種類の現在分詞が
使われていることに注意を要します。

(11) 現在分詞の形容詞的用法と、副詞的用法(分詞構文)とを、見分けるにはどう
したら良いか、と迷う心配はありません。意味を考えれば、どちらであるかは直ぐに
分かるはずです。ただし、形式だけから見分けるという手もないわけではありませ
ん。クレームでは、初めに出てくる要素名(つまり、定冠詞“the”の付かない要素
名)の後に続く分詞形は、形容詞的用法であり、2度目以降に出てくる要素名(つま
り“the”の付く要素名)の後に続く分詞形は、副詞的用法(分詞構文)である、と
いうことができます。


      「外国特許の話」へ

      Home へ