Fukumoto International Patent Office
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福本 2009年10月3日作成 2012年3月, 2018年10月更新
(2009年10月に、ある会社さんの社内研修にてお話したものです。)
1.特許請求の範囲と明細書
「特許請求の範囲」(Claims;クレーム) は、審査の対象とされ、特許されれば特許
権の範囲を定める基準となる発明を記載する書面です。いわば権利書に相当する書
面です。
「明細書」(Specification, Description) は、「特許請求の範囲」に記載された発
明を裏付けたり、「特許請求の範囲」に記載された発明を、当業者が製造及び使用可
能な程度に第三者に開示したりするための書面です。したがって、発明を具体的・詳
細に記載する必要がありますので、通常は図面を引用しつつ記載します。「特許請求
の範囲」は簡潔かつ抽象的に記載されるものであるため、「特許請求の範囲」に記載
された用語の意義を解釈する上でも参酌されます。
「特許請求の範囲」及び「明細書」の記載や役割については、日本では、特許法36条
2〜 6項、70条1, 2項に規定があります。米国では特許法111条2項、112条、欧州では
欧州特許条約78(1), 83, 84条、中国では改正法26条、59条に規定があります。
国によって、特許請求の範囲が明細書の一部であったり(例えば米国、かつての日
本)、別文書であったりします(欧州、中国、現在の日本)。Specification(明細
書)はclaimsを含めた書面、description(明細書、記述説明)はclaimsを除いた記
載欄(かつての日本の「発明の詳細な説明欄」)を意味するものとして使用されてい
るように思われます。
2.要約書(Abstract)
「要約書」は、第三者の検索の便宜のために、発明の要点を短い文章で記載するもの
です。日本では400字以内、米国及び欧州では150ワード以内、中国では300字以内と
なっています。
明細書や図面とは異なり、特許請求の範囲の解釈には利用されないこととされていま
す(米国は例外)。但し、出願が公開されれば、要約書も明細書・図面と同様に、公
知文献となります。
要約書の記載や役割については、日本では、特許法36条2, 7項、70条3項に規定があり
ます。米国では特許法施行規則§1.72(b)、欧州では欧州特許条約78(1), 85条、中国
では改正法26条に規定があります。
3.発明性(特許の対象)
ビジネスの方法、ゲームの方法、計算方法などは、人間の約束事、決め事であって、
技術ではないので、特許の対象ではない、とされています。日本では、特許法2条1項
に「発明」の定義が規定されており、上記のものは「発明」に該当しないと解釈され
ています。米国では、特許法101条に規定の4類型の何れかに属するものであっても、
抽象的アイデア、自然法則、自然現象は、判例により特許の対象から除外されていま
す。欧州では、欧州特許条約52条2項に明文の規定があります。中国では、改正特許
法25条に明文の規定があります。
日本では、ビジネスの方法等であっても、その方法を実現する専用の機械装置があれ
ば、それについては自然法則を利用した技術に属しますので、その着想(思想;アイ
デア)は「発明」に該当することになります。通常は、このような機械装置は、ソフ
トウェアにより動作するコンピュータを用いるものであろうと思われます。技術では
ない方法であっても、ソフトウェアを読み取ったコンピュータが、もはや汎用コンピ
ュータを超えて、あたかも、その方法を実現する専用の情報処理装置となる場合には、
そのようなソフトウェアや情報処理装置は、技術の領域に属し、その着想は「発明」
に該当するものと解されています。(特許実用新案審査基準の自己流解釈)
米国では、近年に至って、抽象的アイデア等の、判例により特許の対象とされないも
の(judicial exception:司法上の除外)に相当していても、「司法上の除外を顕著
に超える」要素(「発明概念」とも称されています)が、クレームに追加されておれ
ば特許の対象とされる、という最高裁判決に従って、特許適格性が判断されています
(Alice/Mayoの2パートテストとして知られています)。司法上の除外に該当しない
か、司法上の除外を顕著に超える要素があるか(発明概念が存在するか)、という判
断が厳しく、従前とは正反対に、ソフトウェア利用発明が特許され難い、という状況
が続いていました。
最近の米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判決を踏まえた、現行の米国特許審査便覧
(MPEP)には、(i)請求項の単一の要素が、司法上の除外を顕著に超えていない場合
であっても、他の要素との組み合わせを考慮することにより、司法上の除外を顕著に
超える可能性があること(MPEP2106.05;2017年8月改訂)、(ii)課題を解決する
ための特定の手段、又は好ましい結果を達成するための特定の方法、を請求項に記載
することにより、司法上の除外を顕著に超える可能性があること(MPEP2106.05(f);
2017年8月改訂)、が記載されています。特に(ii)の記述が注目されます。
今年(2018年)3月1日の私的な研究会において、矢部達雄・米国弁護士より、今年に
入って特許適格性を広く認めるCAFC判決が出ているとして、次の2件の紹介がありま
した。
FINJAN v. Blue Coat System 事件 CAFC 2018年1月10日判決;
Core Wireless v. LG Electronics 事件 CAFC 2018年1月25日判決。
また、今年(2018年)に入ってからの弊所の経験ですが、コンピュータ利用発明につ
いて、自明性拒絶(103条拒絶)が反論により撤回された範囲では、MPEPの上記内容
とCore Wireless事件の判示の引用を含む反論により、特許適格性拒絶(101条拒絶)
も、すんなりと解消される、ということがありました。最近では、特許適格性を緩や
かに判断する方向に、戻りつつあるのでは、という印象を持ちました。
2019年1月/10月には、米国特許庁は、特許の対象(101条)に関する審査ガイダンス
を公表しています。それによると、請求項が司法上の例外を列挙(recite)していた
場合(Alice/MayoのPart 1に相当する米国特許庁のStep 2Aの判断のうち、Prong One
においてYesの場合)であっても、司法上の例外を実用的な応用(practical
application)に統合(integrate)する他の要素を請求項が列挙している場合
(Alice/MayoのPart 1に相当する米国特許庁のStep 2Aの判断のうち、Prong Twoにお
いてYesの場合)には、その請求項は、司法上の例外に向けられてはいない(not
directed to a judicial exception)と判断され、その請求項は101条の特許適格性を
充足するものと判断されます。他の要素が、司法上の例外を実用的な応用に統合して
いる例として、(1)他の要素が、コンピュータの機能の改善(improvement)、又は、
他の技術又は技術分野への改善をもたらす場合、(2)他の要素が、司法上の例外を、
病気又は病状の特定の治療又は予防を達成するように、応用又は使用する場合、など
が挙げられています。(この段2021年10月追記)
欧州では、欧州特許庁審決T1173/97及びT935/97により、「コンピュータプログラム
それ自体も、そのプログラムとコンピュータとの間で、”通常の”物理的な相互作用
を超える技術的効果をもたらすものであれば、特許性を排除されない」旨の判断が示
されています。つまり、特許の対象とされるか否かは、(コンピュータの電流が変化
する等の、当たり前の物理現象を超える)技術的効果があるか否かが、判断の基準と
されます。「技術的効果」ですので、例えばゲームソフト関連発明について、「遊戯
者の興趣性を高める」といった効果は、評価されないことになります。欧州では日本
とは異なり、ゲームソフト関連発明について、特許取得が容易でない要因となってい
ます。
なお、欧州審査便覧(最新は2018年11月版:Part G, Chapter II 3.6 コンピュータ・
プログラム)には、コンピュータ・プログラムについて、技術的特徴(technical
character)を有する場合には、特許性を排除されない、と記載されるとともに、技
術的特徴を有することにより特許性を排除されないためには、コンピュータ・プログ
ラムがコンピュータ上で実行されるときに、「更なる技術的効果(further technical
effect)」が生み出されなければならない、と記載されています。「更なる技術的効
果」とは、プログラム(ソフトウェア)と、それを実行するコンピュータ(ハードウ
ェア)との間における、「通常の」物理的相互作用を超える技術的効果である、と
説明されています。「通常の」物理的相互作用として、コンピュータ中を流れる電流
が、例示されています。(2018年11月7日追記)
より正確には、欧州では、発明がコンピュータを使用するものであれば、欧州特許条
約52条2項に規定の特許適格性は充足し、「技術的効果」の有無は、進歩性(欧州特
許条約56条)の問題として判断されます。(この段2021年10月追記)
中国では、2017年4月1日に施行された改正専利審査指南において、「知的活動の規則
及び方法の内容を含むだけでなく、技術的特徴をも含むのであれば・・・専利法第25
条に基づいて、特許権の取得の可能性を排除してはならない」と規定される第2部分
第1章4.2(2)に、例示として、「ビジネスモデルの請求項に関して、ビジネスの規則
及び方法の内容を含むだけでなく、技術的特徴をも含むのであれば、特許法第25条の
規定に基づいて、特許権の取得の可能性を排除してはならない」という規定が追加さ
れ、審査指南の趣旨がより明確にされています。つまり、技術的特徴があれば、ビジ
ネスモデルに関する請求項ですら、特許の対象から排除されないことが明確化されて
います。これにより、従前は審査の現場では、拒絶されることの多かった、ビジネス
方法等の着想についても、今後は審査指南の主旨に沿った審査が行われることが、期
待されます。技術的特徴を要しますので、欧州と同様の制約は予想されます。
ソフトウェア利用発明の請求項の記載形式(記録媒体を請求項に記載できるか、など)
についても、国毎に差異があります。これについては、本ウェブサイトの「外国特許
の話」−「外国出願を見据えた特許明細書の書き方」−「(8) ソフトウェア発明の
クレームの形式的修正」を、ご参照下さい。
4.新規性
発明が新しいことを言います。特許請求の範囲に記載された発明が、公知文献に記載
された発明や、公然実施(例えば販売)された発明と同一であれば、新規性がない
(新しくない)発明として拒絶されます。特許のための審査で、通常において「第1
段目のハードル」となるものです。日本では、特許法29条第1項、米国では特許法102
条、欧州では欧州特許条約54条、中国では改正特許法22条第2パラグラフに定められ
ています。
発明が刊行物に記載された場合だけでなく、公然実施(販売など)された場合であっ
ても、それが世界のどこで行われても、公知技術となって新規性のない発明になって
しまいます。これを「世界公知」と称します。中国も、2009年10月1日に施行された
改正特許法で、日・欧に並んで「世界公知」の仲間入りをしました。韓国も、2008年
10月1日に施行された改正特許法により、「世界公知」となっています。意外なこと
に、特許先進国である米国は、公然実施(販売など)については、国内公知のままと
なっていました(米国外で発明品を販売しても公知技術にはならず、新規性を失わな
い)。但し、米国特許法改正により、2013年3月16日以降は米国も世界公知となりま
した。
5.進歩性
発明が新しくても(つまり新規性があっても)、公知の技術から容易に思いつく発明
は、進歩性のない発明として拒絶されます。特許のための審査で、通常において「第
2段目のハードル」となるものです。いずれの国も共通です。日本では、特許法29条
第2項、米国では特許法103条、欧州では欧州特許条約56条、中国では改正特許法22条
第3パラグラフに定められています。
進歩性の判断は、新規性とは異なり、「容易に思いつく」か否かの判断であるため、
主観に左右され易いという一面があります。国毎に、長年の判決例に基づいて判断基
準が形成されていますが、国によって微妙に異なっています。従来は、欧州、日本で
は判断が厳しく(ハードルが高く)、米国では緩い(ハードルが低い)というのが常
識でしたが、米国でも2007年4月30日の最高裁判決(KSR事件判決)を契機に、判断基
準が日本のものに近くなっており、進歩性判断が従前よりも厳しくなっています。
6.先願主義の規定
特許請求の範囲に記載された発明が互いに同じである2つの出願があれば、後に出願
した方は拒絶されます。先の出願の内容が公開される(出願の1年半年後には公開さ
れる)前に、後の出願がなされておれば、後の出願の発明は、先の出願の内容に基づ
いて新規性や進歩性を問われることはありませんが、後願を理由に拒絶されます。こ
れが「先願主義」(早く出願した者が勝ち、という考え方)と言われる原則です。
日本では特許法39条に規定があり、欧州には欧州特許条約60条2項に規定があり、中
国には改正特許法9条に規定があります。伝統的に先発明主義(早く発明した者が勝
ち、という考え方)を採ってきた米国にはありませんが、同一発明者又は同一譲受人
による2つの出願の間で、クレームが同一であると、二重特許を理由に拒絶されます
(米国特許法101条)。
米国には、クレームが同一でなくても互いに自明な場合にも拒絶する「自明型二重特
許」の拒絶、という実務もあります。これは判例法に基づくものです。自明型二重特
許を理由に拒絶された場合には、ターミナルディスクレーマを提出すれば、拒絶を解
消することができます。ターミナルディスクレーマを提出すると、後の出願による特
許権の存続期間が、先の出願による特許権の存続期間と一緒に満了することになりま
す(つまり存続期間が短くなる)。また、ターミナルディスクレーマを提出すると、
先後2つの特許権を分離して別の人に移転することができない、という制限を伴いま
す。この点、日本の関連意匠の意匠権の扱いに似ています。
7.拡大された範囲の先願の規定
先願主義に基づく規定では、先後2つの出願のクレームの重複が問題とされます。こ
れに対して、先の出願が未だ公開されておらず、公知になっていないときに、後の出
願をして、その後に先の出願が公開された場合には、先の出願のクレームだけでなく
明細書全体(図面も含む)のどこかに記載された発明と同一の発明を、後の出願の特
許請求の範囲に記載しておれば、後の出願は拒絶されます。ただし、先後の出願の間
で、発明者が全員同一(完全同一と称されます)か、出願人が全員同一(完全同一と
称されます)である場合には、適用がありません。この規定は、「拡大された範囲の
先願」の規定と通称されています。日本では特許法29条の2(29条2項とは別の条文で
す)に規定されています。
「先願」の規定とは言っても、先願の明細書に開示された発明と同一の発明に特許を
付与するのは、新規な発明の公開の代償として特許を付与するという特許制度の枠組
みに反する、というのが規定の趣旨ですので、新規性を特許要件とする趣旨と同趣旨
と言えます。他の多くの国では、新規性のない発明の類型として規定されています。
例えば、米国では、特許法改正前は、新規性を規定する特許法102条のうちの(e)項に
規定があり、改正(2013年3月16日施行)後は、同じく新規性を規定する特許法102条
のうちの(a)(2)項に規定されています。欧州では新規性を規定する欧州特許条約54条
のうちの(3)項に規定があり、中国では新規性を規定する改正特許法22条第2パラグラ
フに規定があります。
米国では、特許法改正前は、日本と同様に、発明者(米国では、出願日が2012年9月
16日より前の出願については、出願人は発明者に限られていました)が全員同一であ
る場合には適用がありませんでした(特許法102条(e)項)。特許法改正(2013年3月
16日施行)後は、発明者、出願人のいずれかが同一の場合には、適用がありません
(改正特許法102条(b)(2)(A)項,(b)(2)(C)項)。
より詳細には、特許法改正(2013年3月16日施行)後は、先願に開示される発明が、
後願の発明者又は共同発明者から、直接又は間接的に得られたものである場合(改正
特許法102条(b)(2)(A)項)、先願に開示される発明が、先願の優先日前に、後願の発
明者又は共同発明者により公開されるか、又は後願の発明者又は共同発明者から直接
又は間接的に知得した者により公開されたものである場合(改正特許法102条(b)(2)
(B)項)、及び後願の優先日までに、先後願の間で発明が同一人に帰属していたか、
同一人に譲渡の義務があった(例えば、出願人が同一である)場合(改正特許法102
条(b)(2)(C)項)には、適用がありません。
なお、米国では、先願の出願日は、優先日ではなく米国への現実の出願日である、と
判例により解されていました(ヒルマー法理)が、改正特許法により、後願だけでな
く先願の出願日も優先日とされ(特許法102条(d)項)、ヒルマー法理は効力を失いま
した。
欧州では、発明者や出願人が同一であっても、適用がある点に注意を要します。中国
では、発明者が全員同一でも適用があり、出願人が全員同一である場合に限り、適用
がありませんでしたが、改正特許法(2009年10月1日施行)により、出願人が全員同
一である場合についても、適用されることになりました。自身が過去に出願した内容
が未公開の間に、明細書に記載した一部の発明について新たに特許請求の範囲に記載
して出願すると、自身の先の出願に基づいて拒絶されることになります。日本とは異
なる実務ですので注意を要します。
なお、欧州では、先後の出願の間で指定国が異なっておれば、適用がありませんでし
たが、EPC2000の発効(2007年12月13日)に伴い、このような制限はなくなりました。
出願された発明の進歩性が、先願に記載され出願後に公開された発明によって、否定
されるかについても、国毎に差異があります。日本では、このような「拡大先願」に
記載された発明は、進歩性判断においては、先行技術とはされません(日本特許法29
条2項)。欧州、中国でも日本と同様です(欧州特許条約55条;改正中国特許法22条
第3,5パラグラフ)。
これに対し、米国では、新規性判断の先行技術としての資格を有するもの(改正前・
改正後米国特許法102条に規定される先行技術)は、先願に記載の発明を含めて、進
歩性判断の先行技術ともなります(改正前・改正後米国特許法103条)。但し、改正
前には、先願に記載の発明(改正前特許法102条(e)項に規定の先行技術)について、
後願の発明がなされた時に、先後願の間で発明が同一人に帰属していたか、同一人に
譲渡の義務があった場合には、進歩性判断の先行技術とはしない、という例外が規定
されていました(改正前特許法103条(c)(1)項)。改正後には、先願に記載の発明に
ついて、上記の通り、後願の優先日までに、先後願の間で発明が同一人に帰属してい
たか、同一人に譲渡の義務があった場合(改正特許法102条(b)(2)(C)項)には、新規
性判断の先行技術とはされませんので、改正前に規定された例外は無くなりました。
8.新規性喪失の例外規定(グレース・ピリオド;Grace period)
発明が公知となって新規性が失われる場合であっても、一定の場合には、新規性を失
わないこととして、出願人を保護する制度です。日本では特許法30条に規定がありま
す。自身の発明を刊行物に発表したり、インターネットで発表したり、特許庁長官の
指定を受けている学会(例えば物理学会など)で発表したり、政府や地方自治体が開
設する博覧会に出品したりした場合には、6箇月以内に、新規性喪失の例外の規定を
受ける旨を願書に記載して出願をすれば、新規性を失わなかったものとして扱われま
す。出願から30日以内に、発表した事実を証明する書面を特許庁へ提出する必要が
あります。
日本特許法の改正により、出願日が平成24年4月1日以降の出願については、発明
品の販売など、出願人の行為に起因する幅広い行為が、新規性喪失の例外の規定の対
象となりました。国内優先権の主張を伴う出願では、優先権の効果により出願日が平
成24年4月1日より前であるとの扱いを受ける発明については、従来通りの扱いと
されます。また、国内・外国の特許・実用新案・意匠・商標公報に掲載されたものは、
対象外であることが明確にされています。新規性を失った日から6箇月以内に出願す
べきこと、出願から30日以内に証明書を提出すべきこと、については変わりありま
せん。
自身の意に反して、他人が勝手に発明を公表した場合にも適用があります。この場合
にも6箇月以内に出願をしておかなければなりません。願書に適用を受ける旨の記載
は不要で、事実を証明する書面を出願から30日以内に提出する必要もありませんが、
公表された発明に基づいて拒絶や無効にされようとする場面が到来したら、「意に反
して」公知になったことを主張及び立証する責任を負います。勝手に公表されたこと
は分からないことが多いと思われますので、この意味でも発明が完成したら早く出願
することが大切と言えます。
日本特許法の更なる改正により、新規性喪失の例外期間が6か月から1年に延長され
ました。2018年6月9日以降にする出願が対象となります。2018年6月9日以降の出願で
あっても、2017年12月8日以前に公開された発明については、延長された例外期間は
適用されません。
米国では、特許法改正前から第102条(b)項に規定があり、発明品の販売行為も含めて
幅広い行為に適用があります。しかも、公知となって1年以内に米国出願をすればよ
く、出願人保護が、古くから世界一厚い制度となっています。ワンイヤールール(One
-year rule)と称されています。これは、米国が先願主義ではなく先発明主義を基本
としていたことから、発明の秘匿という先発明主義の弊害を是正するために、出願を
促進する目的で設けられた制度であることに由来します。ワンイヤールールは、先発
明主義から先願主義寄りとなる米国改正特許法の施行(2013年3月16日)後も、残さ
れています。しかも、出願が優先権を主張している場合には、優先日前1年以内の行
為について、ワンイヤールールが適用されるようになりました(特許法102条(b)(1)
(A))。
より詳細には、特許法改正後のワンイヤールールは、出願された発明が、優先日前1
年以内に、出願の発明者又は共同発明者により公開されるか、又は出願の発明者又は
共同発明者から直接又は間接的に知得した者により公開された場合に適用されます
(改正特許法102条(b)(1)(A)項)。更には、優先日前1年以内に公開された発明が、
その公開前に、出願の発明者又は共同発明者により公開されるか、又は出願の発明者
又は共同発明者から直接又は間接的に知得した者により公開されたものである場合に
は、その公開は無いものとして扱われます(改正特許法102条(b)(1)(B)項)。
後者は、自己の出願の優先日前1年以内に他人の公開があっても、それよりも先に自
己が公開しておれば、その他人の公開を排除できることを意味しています。上記「7.
拡大された範囲の先願の規定」に記したように、改正後の米国特許法には、自己の先
公開によって、他人の先願を排除する規定も、設けられています(改正特許法102条
(b)(2)(B)項)。
他人の先公開、先願を排除する、これらの規定は、改正前の先発明主義の要素を、改
正法に一部残しておくことを意図としたものではないか、と思われます。なお、他人
の公開や出願より前にした自己の先公開が、自己の出願の優先日前1年以内になく、
それよりも前であれば、他人の先公開、先願を排除できても、自己の先公開行為には、
ワンイヤールール(改正特許法102条(b)(1)(A)項)が、効かないことになります。従
って、自己の先公開行為も、自己の出願の優先日前1年以内であることを、要するこ
とになります。
米国出願が改正法の適用を受けるか、否かは、請求項毎の優先日によって決まります。
全ての請求項の優先日が、2013年3月16日より前であれば、出願は改正前の特許法の
適用を受けます。請求項のうちの1項でも、その優先日が、2013年3月16日以降であ
れば、出願全体が、改正法の適用を受けます。一旦、改正法が適用されると、優先日
が2013年3月16日以降である請求項を削除する補正をしても、引き続き改正法が適用
されます。改正法が適用された親出願の継続出願、一部継続出願、分割出願も、請求
項の優先日に拘わらず、改正法が適用されます。
韓国は、2006年3月3日に施行された改正特許法により、同じく幅広い行為に適用があ
ります(ただし出願公開公報・特許公報への掲載には不適用)。6箇月以内に出願
をする必要がありましたが、新たな韓国改正特許法の施行(2012年3月15日施行)に
より、6箇月の期間は12箇月となりました。
欧州や中国は、以前の日本と比べても、適用の範囲が狭くなっています。欧州では、
欧州特許条約55条に規定があり、出願人の意に反する場合と、パリ条約同盟国内での
公認の国際博覧会に展示した場合のみが規定されています。6箇月以内に出願し、展
示の場合には出願の際にその事実を記載し、出願から4箇月以内に展示の事実を裏付
ける証明書を提出する必要があります。中国では、改正特許法24条に規定があり、公
認の国際博覧会への出品、所定の学会での発表、出願人の意に反する場合に限られて
います。いずれも6箇月以内に出願する必要があります。
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