Fukumoto International Patent Office


基本的な特許用語のお話(各国比較)


        福本 2009年10月3日作成 2012年3月, 2018年10月更新
                    2021年10月,2023年11月追記 

   (2009年10月に、ある会社さんの社内研修にてお話したものです。)

1.特許請求の範囲と明細書

「特許請求の範囲」(Claims;クレーム) は、審査の対象とされ、特許されれば特許
権の範囲を定める基準となる発明を記載する書面です。いわば権利書に相当する書
面です。

「明細書」(Specification, Description) は、「特許請求の範囲」に記載された発
明を裏付けたり、「特許請求の範囲」に記載された発明を、当業者が製造及び使用可
能な程度に第三者に開示したりするための書面です。したがって、発明を具体的・詳
細に記載する必要がありますので、通常は図面を引用しつつ記載します。「特許請求
の範囲」は簡潔かつ抽象的に記載されるものであるため、「特許請求の範囲」に記載
された用語の意義を解釈する上でも参酌されます。

「特許請求の範囲」及び「明細書」の記載や役割については、日本では、特許法36条
2〜 6項、70条1, 2項に規定があります。米国では特許法111条2項、112条、欧州では
欧州特許条約78(1), 83, 84条、中国では改正法26条、59条に規定があります。

国によって、特許請求の範囲が明細書の一部であったり(例えば米国、かつての日
本)、別文書であったりします(欧州、中国、現在の日本)。Specification(明細
書)はclaimsを含めた書面、description(明細書、記述説明)はclaimsを除いた記
載欄(かつての日本の「発明の詳細な説明欄」)を意味するものとして使用されてい
るように思われます。

2.要約書(Abstract)

「要約書」は、第三者の検索の便宜のために、発明の要点を短い文章で記載するもの
です。日本では400字以内、米国及び欧州では150ワード以内、中国では300字以内と
なっています。

明細書や図面とは異なり、特許請求の範囲の解釈には利用されないこととされていま
す(米国は例外)。但し、出願が公開されれば、要約書も明細書・図面と同様に、公
知文献となります。

要約書の記載や役割については、日本では、特許法36条2, 7項、70条3項に規定があり
ます。米国では特許法施行規則§1.72(b)、欧州では欧州特許条約78(1), 85条、中国
では改正法26条に規定があります。

3.発明性(特許の対象)

ビジネスの方法、ゲームの方法、計算方法などは、人間の約束事、決め事であって、
技術ではないので、特許の対象ではない、とされています。日本では、特許法2条1項
に「発明」の定義が規定されており、上記のものは「発明」に該当しないと解釈され
ています。米国では、特許法101条に規定の4類型の何れかに属するものであっても、
抽象的アイデア、自然法則、自然現象は、判例により特許の対象から除外されていま
す。欧州では、欧州特許条約52条2項に明文の規定があります。中国では、改正特許
法25条に明文の規定があります。

日本では、ビジネスの方法等であっても、その方法を実現する専用の機械装置があれ
ば、それについては自然法則を利用した技術に属しますので、その着想(思想;アイ
デア)は「発明」に該当することになります。通常は、このような機械装置は、ソフ
トウェアにより動作するコンピュータを用いるものであろうと思われます。技術では
ない方法であっても、ソフトウェアを読み取ったコンピュータが、もはや汎用コンピ
ュータを超えて、あたかも、その方法を実現する専用の情報処理装置となる場合には、
そのようなソフトウェアや情報処理装置は、技術の領域に属し、その着想は「発明」
に該当するものと解されています。(特許実用新案審査基準の自己流解釈)

米国では、近年に至って、抽象的アイデア等の、判例により特許の対象とされないも
の(judicial exception:司法上の除外)に相当していても、「司法上の除外を顕著
に超える」要素(「発明概念」とも称されています)が、クレームに追加されておれ
ば特許の対象とされる、という最高裁判決に従って、特許適格性が判断されています
(Alice/Mayoの2パートテストとして知られています)。司法上の除外に該当しない
か、司法上の除外を顕著に超える要素があるか(発明概念が存在するか)、という判
断が厳しく、従前とは正反対に、ソフトウェア利用発明が特許され難い、という状況
が続いていました。

最近の米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判決を踏まえた、現行の米国特許審査便覧
(MPEP)には、(i)請求項の単一の要素が、司法上の除外を顕著に超えていない場合
であっても、他の要素との組み合わせを考慮することにより、司法上の除外を顕著に
超える可能性があること(MPEP2106.05;2017年8月改訂)、(ii)課題を解決する
ための特定の手段、又は好ましい結果を達成するための特定の方法、を請求項に記載
することにより、司法上の除外を顕著に超える可能性があること(MPEP2106.05(f);
2017年8月改訂)、が記載されています。特に(ii)の記述が注目されます。

今年(2018年)3月1日の私的な研究会において、矢部達雄・米国弁護士より、今年に
入って特許適格性を広く認めるCAFC判決が出ているとして、次の2件の紹介がありま
した。
FINJAN v. Blue Coat System 事件 CAFC 2018年1月10日判決;
Core Wireless v. LG Electronics 事件 CAFC 2018年1月25日判決。

また、今年(2018年)に入ってからの弊所の経験ですが、コンピュータ利用発明につ
いて、自明性拒絶(103条拒絶)が反論により撤回された範囲では、MPEPの上記内容
とCore Wireless事件の判示の引用を含む反論により、特許適格性拒絶(101条拒絶)
も、すんなりと解消される、ということがありました。最近では、特許適格性を緩や
かに判断する方向に、戻りつつあるのでは、という印象を持ちました。

2019年1月/10月には、米国特許庁は、特許の対象(101条)に関する審査ガイダンス
を公表しています。それによると、請求項が司法上の例外を列挙(recite)していた
場合(Alice/MayoのPart 1に相当する米国特許庁のStep 2Aの判断のうち、Prong One
においてYesの場合)であっても、司法上の例外を実用的な応用(practical 
application)に統合(integrate)する他の要素を請求項が列挙している場合
(Alice/MayoのPart 1に相当する米国特許庁のStep 2Aの判断のうち、Prong Twoにお
いてYesの場合)には、その請求項は、司法上の例外に向けられてはいない(not 
directed to a judicial exception)と判断され、その請求項は101条の特許適格性を
充足するものと判断されます。他の要素が、司法上の例外を実用的な応用に統合して
いる例として、(1)他の要素が、コンピュータの機能の改善(improvement)、又は、
他の技術又は技術分野への改善をもたらす場合、(2)他の要素が、司法上の例外を、
病気又は病状の特定の治療又は予防を達成するように、応用又は使用する場合、など
が挙げられています。(この段2021年10月追記)

欧州では、欧州特許庁審決T1173/97及びT935/97により、「コンピュータプログラム
それ自体も、そのプログラムとコンピュータとの間で、”通常の”物理的な相互作用
を超える技術的効果をもたらすものであれば、特許性を排除されない」旨の判断が示
されています。つまり、特許の対象とされるか否かは、(コンピュータの電流が変化
する等の、当たり前の物理現象を超える)技術的効果があるか否かが、判断の基準と
されます。「技術的効果」ですので、例えばゲームソフト関連発明について、「遊戯
者の興趣性を高める」といった効果は、評価されないことになります。欧州では日本
とは異なり、ゲームソフト関連発明について、特許取得が容易でない要因となってい
ます。

なお、欧州審査便覧(最新は2018年11月版:Part G, Chapter II 3.6 コンピュータ・
プログラム)には、コンピュータ・プログラムについて、技術的特徴(technical 
character)を有する場合には、特許性を排除されない、と記載されるとともに、技
術的特徴を有することにより特許性を排除されないためには、コンピュータ・プログ
ラムがコンピュータ上で実行されるときに、「更なる技術的効果(further technical 
effect)」が生み出されなければならない、と記載されています。「更なる技術的効
果」とは、プログラム(ソフトウェア)と、それを実行するコンピュータ(ハードウ
ェア)との間における、「通常の」物理的相互作用を超える技術的効果である、と
説明されています。「通常の」物理的相互作用として、コンピュータ中を流れる電流
が、例示されています。(2018年11月7日追記)

より正確には、欧州では、発明がコンピュータを使用するものであれば、欧州特許条
約52条2項に規定の特許適格性は充足し、「技術的効果」の有無は、進歩性(欧州特
許条約56条)の問題として判断されます。(この段2021年10月追記)

中国では、2017年4月1日に施行された改正専利審査指南において、「知的活動の規則
及び方法の内容を含むだけでなく、技術的特徴をも含むのであれば・・・専利法第25
条に基づいて、特許権の取得の可能性を排除してはならない」と規定される第2部分
第1章4.2(2)に、例示として、「ビジネスモデルの請求項に関して、ビジネスの規則
及び方法の内容を含むだけでなく、技術的特徴をも含むのであれば、特許法第25条の
規定に基づいて、特許権の取得の可能性を排除してはならない」という規定が追加さ
れ、審査指南の趣旨がより明確にされています。つまり、技術的特徴があれば、ビジ
ネスモデルに関する請求項ですら、特許の対象から排除されないことが明確化されて
います。これにより、従前は審査の現場では、拒絶されることの多かった、ビジネス
方法等の着想についても、今後は審査指南の主旨に沿った審査が行われることが、期
待されます。技術的特徴を要しますので、欧州と同様の制約は予想されます。

ソフトウェア利用発明の請求項の記載形式(記録媒体を請求項に記載できるか、など)
についても、国毎に差異があります。これについては、本ウェブサイトの「外国特許
の話」−「外国出願を見据えた特許明細書の書き方」−「(8) ソフトウェア発明の
クレームの形式的修正」を、ご参照下さい。

4.新規性

発明が新しいことを言います。特許請求の範囲に記載された発明が、公知文献に記載
された発明や、公然実施(例えば販売)された発明と同一であれば、新規性がない
(新しくない)発明として拒絶されます。特許のための審査で、通常において「第1
段目のハードル」となるものです。日本では、特許法29条第1項、米国では特許法102
条、欧州では欧州特許条約54条、中国では改正特許法22条第2パラグラフに定められ
ています。

発明が刊行物に記載された場合だけでなく、公然実施(販売など)された場合であっ
ても、それが世界のどこで行われても、公知技術となって新規性のない発明になって
しまいます。これを「世界公知」と称します。中国も、2009年10月1日に施行された
改正特許法で、日・欧に並んで「世界公知」の仲間入りをしました。韓国も、2008年
10月1日に施行された改正特許法により、「世界公知」となっています。意外なこと
に、特許先進国である米国は、公然実施(販売など)については、国内公知のままと
なっていました(米国外で発明品を販売しても公知技術にはならず、新規性を失わな
い)。但し、米国特許法改正により、2013年3月16日以降は米国も世界公知となりま
した。

5.進歩性

発明が新しくても(つまり新規性があっても)、公知の技術から容易に思いつく発明
は、進歩性のない発明として拒絶されます。特許のための審査で、通常において「第
2段目のハードル」となるものです。いずれの国も共通です。日本では、特許法29条
第2項、米国では特許法103条、欧州では欧州特許条約56条、中国では改正特許法22条
第3パラグラフに定められています。

進歩性の判断は、新規性とは異なり、「容易に思いつく」か否かの判断であるため、
主観に左右され易いという一面があります。国毎に、長年の判決例に基づいて判断基
準が形成されていますが、国によって微妙に異なっています。従来は、欧州、日本で
は判断が厳しく(ハードルが高く)、米国では緩い(ハードルが低い)というのが常
識でしたが、米国でも2007年4月30日の最高裁判決(KSR事件判決)を契機に、判断基
準が日本のものに近くなっており、進歩性判断が従前よりも厳しくなっています。

以下は、進歩性に関する各国の判断基準の要点です。(2023年11月追記)

<日本>
日本の進歩性判断については、「特許庁・特許実用新案審査基準」よりも幾分踏み込
んだ、清水節・知的財産高等裁判所所長の見解(以下、関西特許研究会主催2017年
9月2日KTK夏期セミナー講演の筆記メモより:但し、メモの正確性は保証致しません
ので、参考程度に止めて頂きますよう)が参考になるものと思われます。

・(審査対象である本願発明と、主たる引用発明との間の)相違点を開示する技術思
 想が、共通する技術分野にあるか→なければ進歩性を肯定、あればその相違点が容
 易推考か否かの「相違点判断」へ
・開示する技術思想が、@設計的事項・技術常識、A周知技術、B公知技術のいずれ
 に該当するか
・@設計的事項・技術常識は、立証するまでもないような当業者にとっての汎用的な
 技術、A周知技術は周知性が立証できるような一般的技術
・主たる引用発明に@又はAを適用しようとする場合は、原則として動機付けは不要
・B公知技術を適用しようとする場合は、動機付け・課題が必要(これは重要な争点、
 と仰っていました)
 技術分野が同一であるだけで適用することは許されない
 動機付け・課題は何に示されているか
・引用発明に、周知技術や公知技術を組み合わせることに阻害事由が認められる場合
 →進歩性を肯定
・引用発明に、周知技術は公知技術を組み合わせることが容易であるとしても、その
 組み合わせ発明が、当業者が予測できない顕著な作用効果を有する場合→進歩性を
 肯定

「特許庁・特許実用新案審査基準」には、主引用発明に副引用発明を適用する動機付
けの例として、
(1)	技術分野の関連性
(2)	課題の共通性
(3)	作用、機能の共通性
(4)	引用発明の内容中の示唆
が挙げられています。

ここで、「関連性」、「共通性」について、最新の「特許庁・特許実用新案審査基準」
(2015年度版)には、主引用発明と副引用発明の間の「関連性」、「共通性」である
ことが、明確にされています。「課題の共通性」の例としては、次のような例が挙げ
られています。

例2:
[請求項]
表面に硬質炭素膜が形成されたペットボトル。
[主引用発明]
表面に酸化ケイ素膜が形成されたペットボトル。
(主引用発明が記載された刊行物には、酸化ケイ素膜のコーティングがガスバリア性
を高めるためのものであることについて記載されている。)
[副引用発明]
表面に硬質炭素膜が形成された密封容器。
(副引用発明が記載された刊行物には、硬質炭素膜のコーティングがガスバリア性を
高めるためのものであることについて記載されている。)
(説明)
膜のコーティングがガスバリア性を高めるためのものであることに着目すると、主引
用発明と副引用発明との間で課題は共通している。

<米国>
米国では、進歩性(米国では「non-obviousness:非自明性」)判断の手法として、
CAFC(連邦巡回控訴裁判所)、米国特許庁において永く通用していた、いわば
「TSMテスト」(「教示−示唆−動機」(teaching-suggestion-motivation)テスト)
一辺倒の姿勢が、上記のKSR最高裁判決(2007年)により否定され、以下の(A)〜
(G)が進歩性判断の類型(進歩性否定の理由付けの類型)として例示されていま
す。その後、「米国特許審査便覧(MPEP)」にも明記されています(MPEP2143 1.)。

KSR最高裁判決は、「TSMテスト」について、様々な類型の一つとして有用であるとし
て、例示の類型の一つ(G)に挙げています。また、(A)〜(G)は、あくまで例
示であって、これらに限定する主旨ではないことも、明らかにされています。

(A)予測可能な結果を得るために、公知の(known)方法により、先行技術の要素を
組み合わせること
(B)予測可能な結果を得るために、ある公知の要素を他の要素に単に置換すること
(C)公知の技術を、類似の装置(方法、又は製品)の改良のために、同じ方法で用
いること
(D)予測可能な結果を得るために、公知の技術を、改良の準備ができている公知の
装置(方法、又は製品)に適用すること
(E)「自明な試行(obvious to try)」― 限定された数の特定された予測可能な手
段(solutions)から、成功への合理的な期待をもって選択すること
(F)ある技術分野における公知の成果は、その変形(variations)が当業者に予測可
能である場合には、設計上のインセンティブ又は他の市場原理に基づいて、同一又は
異なる分野で使用するために、当該変形を促す可能性がある。
(G)先行技術文献を修正したり、先行技術文献の教示事項を組み合わせることによ
り、請求項に記載の発明に到達するよう、当業者を導いたであろう、先行技術におけ
る何らかの教示、示唆、又は動機付け。

「米国特許審査便覧(MPEP)」には、各類型(A)〜(G)について、CAFC判決例が
挙げられています。実務上遭遇する機会が多いと思われる、類型(A)については、
「KSR最高裁判決」以降のCAFC判決の中で、次の「例5」が機械分野の比較的簡単な
例となっています。

例5:
 Sundance, Inc. v. DeMonte Fabricating Ltd., 550 F.3d 1356,89 USPQ2d 1535
 (Fed. Cir. 2008)事件判決は、トラック、水泳プール、その他の構造物用の、分割
されかつ機械化されたカバーに関するものである。請求項は、適用された先行技術に
対して自明である(進歩性が無い)と判断された。
 第1の先行技術文献は、分割されたカバーを製造する理由が、損傷を受けた単一の
分割片を、必要なときに容易に除去し、かつ交換することができるという点で、修理
のし易いことにあることを教示している。第2の先行技術文献は、機械化されたカバ
ーの利点が、開け易さにあることを教示している。CAFCは、第1の先行技術文献の分
割の構造と、第2の先行技術文献の機械化の機能とは、組み合わせ後において、組み
合わせ前と同じ方法で機能する、と指摘した。CAFCは更に、第1の先行技術文献が教
示する交換可能な分割片を、第2の先行技術文献の機械化カバーに付加することによ
り、双方の先行技術文献のカバーの有利な性質を維持したカバーが得られることを、
当業者は予測したであろう、と述べている。
 このように、公知の要素の組み合わせに基づく適切な自明性(進歩性欠如)拒絶の
特徴は、これらの要素が、それぞれの性質又は機能を組み合わせの後において維持す
ることを、当業者が合理的に予測したであろう、という点にあることを、Sundance事
件判決は指摘した。

<欧州(EPO)>
 欧州特許庁(EPO)では、進歩性(inventive step)の判断は、「課題−解決アプロー
チ」(problem-solution approach)と称される、次の3段階に沿って行われます(欧
州特許庁審査便覧(Guidelines for Examination in the EPO,March 2023)Part G
− Chapter VII 参照)。
(i) (本願発明に)「最も近い先行技術」を定める;
(ii) (本願発明と「最も近い先行技術」との差異に基づいて)解決すべき「客観的
   な技術的課題」を定める;
(iii)「最も近い先行技術」と「客観的な技術的課題」から出発したときに、本願発
   明が当業者に自明であったであろうか、を考察する。
 
 (i)本願発明に「最も近い先行技術」は、本願発明(請求項に記載の発明)と目的
又は効果が類似している(similar)か、あるいは少なくとも、技術分野が同一又は密
接に関連している(closely related)ものを、選択すべきとされています。また、実
際上、「最も近い先行技術」は一般に、用途が類似しており、かつ本願発明に到達す
るために要する構造上及び機能上の変更が、最小で済むようなもの、とされています。

 (ii) 「客観的な技術的課題」については、(1)本願と、(2)「最も近い先行技術」
と、(3)本願と「最も近い先行技術」との間の構造上又は機能上の特徴の相違(本願
発明の「相違する特徴」”distinguishing feature(s)”と称されます)と、を考察し
て、「相違する特徴」に由来する技術的効果を同定し、それにより技術的課題が定め
られます。

 (iii)「本願発明が当業者に自明であったであろうか」、という考察については、
先行技術全体(the prior art as a whole)の中に何らかの教示があって、当業者が
「客観的な技術的課題」に直面したときに、その教示を考慮することにより「最も近
い先行技術」を変更又は適合させ、それにより請求項に記載された事項に到達し、そ
の結果、本願発明が達成するところのものを達成したであろう(would)か(「するこ
とができた (could)」ではなく)、という問いに答えることであるとされています。
このアプローチは、”Could-would approach”と称されています。

 言い換えると、先行技術が当業者に、何らかの改良又は利点への期待をもって「最
も近い先行技術」を変形又は適合させるよう、動機付け(motivation)を与えており、
それにより、当業者がそうすることにより、本願発明に到達したであろう(「するこ
とができた」ではなく)、と言えるか否か、であるとされています。また、動機付け
は、暗示的(implicit)なものでも足りる、とされています。

 「最も近い先行技術」に、1つ又は2以上の文献の開示内容を組み合わせること
は、許されます。但し、特徴の組み合わせに到達するために、「最も近い先行技術」
に2以上の開示内容を組み合わせることを要する場合には、例えば請求項記載の発明
が特徴の単なる寄せ集めではなければ、進歩性が存在する可能性がある、とされてい
ます。

 本願発明が複数の独立した「部分的課題(partial problem)」に対する解決手段で
ある場合には、情況は異なります。このような場合には、部分的課題を解決する特徴
の組み合わせが先行技術から自明なものとして導かれるか、について、部分的課題毎
に別個に評価がなされるべき、とされています。従って、部分的課題毎に、異なる文
献を「最も近い先行技術」に組み合わせることができます。請求項記載の発明が進歩
性を有するためには、これらの特徴の組み合わせのうちの一つについて、進歩性があ
れば足ります。

 2以上の互いに区別される開示内容を組み合わせることが自明であったであろう、
と言えるか、を判断する際に、審査官は特に以下の事項を考慮すべき、とされていま
す。

(i) (文献などの)開示内容は、本願発明が解決すべき課題に直面したときに、当業
  者がそれらを組み合わせたであろう、ということが確からしい(likely)か、ある
  いはあり難い(unlikely)か、いずれであるか ―― 例えば、2つの開示内容が、
  開示されている本願発明に本質的な特徴が本来的に両立不可能であるために、全
  体として実際上、容易には組み合わせられない場合には、これらの開示内容の組
  み合わせは、通常において、自明であるとはみなされない。

(ii) 開示内容は、互いに類似の技術分野、近い技術分野、遠い技術分野のものであ
  るか。
 
(iii) 同一文献の2以上の部分を組み合わせることは、当業者がこれらの部分を互い
   に関連付けることについて合理的な根拠がある場合には、自明であったであろ
   う。通常において、先行技術文献を、周知の教科書又は標準的な辞書と組み合
   わせることは、自明である。このことは、1以上の文献の教示内容を、当分野
   の一般的技術常識(common general knowledge)と組み合わせることは自明であ
   る、という一般的命題の一つの例に過ぎない。一般に、一方の文献が他の文献
   について明確で間違いようのない言及を含んでいる2つの文献を組み合わせる
   ことも、自明である。公用など、他の何らかの方法で公開された先行技術に、
   文献を組み合わせることが許されるかを判断する際にも、同様の考慮が適用さ
   れる。

<中国>
 中国では、進歩性(中国では「創造性」)は、先行技術と比べて、発明が「突出し
た実質的特徴」と「顕著な進歩」を有することを指す、と規定されています(専利法
第22条第3パラグラフ)。「突出した実質的特徴」と「顕著な進歩」は、「専利審査
指南2010第四章」(特許審査基準2010年版第4章)によると、以下の要領で判断され
ます。

(I)「突出した実質的特徴」とは、発明が先行技術に対して当業者に「自明」では
ないこと、とされ、「自明」か否かは、欧州(EPO)と類似した次の3段階に沿って判
断されます。

(1)(本願発明に)「最も近い先行技術」を定める;
(2)(本願発明と「最も近い先行技術」との対比に基づいて)本願発明の「相違する
  特徴」(「区別特徴」と称されます)を確定し、それにより本願発明が解決する
  「技術的課題」を確定する;
(3) (「最も近い先行技術」と本願発明が解決する「技術的課題」とから出発したと
  きに、)本願発明が当業者に自明であったか、を判断する。

 (1)「最も近い先行技術」は、先行技術の中で本願発明(請求項に記載の発明)と
最も密接に関連する技術的解決手段であり、例えば、(i) 本願発明と技術分野が同一
であり、解決すべき技術的課題・技術的効果又は用途が最も近接し、かつ/又は本願
発明の技術的特徴を最も多く開示している先行技術、あるいは、(ii) 本願発明と技
術分野は異なっていても、発明の機能を実現でき、しかも本願発明の技術的特徴を最
も多く開示している先行技術、とされています。また、注意すべきは、「最も近い先
行技術」を確定するときには、先ず、技術分野が同一又は近接する先行技術を考慮す
ること、とされています。

 (2)本願発明が解決する「技術的課題」を確定するには、先ず、「最も近い先行
技術」と比べて本願発明がどのような「相違する特徴」を有するかを分析し、その後
に、「相違する特徴」が達成し得る技術的効果に基づいて、本願発明が解決する「技
術的課題」を確定する。発明のどのような技術的効果も、「技術的課題」を確定する
基礎とすることができ、当業者が出願明細書に記載された内容から技術的効果を知得
できさえすれば良い、とされています。

 (3)自明か否かの判断については、「最も近い先行技術」と本願発明が解決する
「技術的課題」とから出発したときに、本願発明が当業者に自明であったか、を判断
する。この判断の過程において、確定すべきことは、先行技術全体の中に技術的な教
示が存在するか否か、すなわち先行技術の中に、「相違する特徴」を「最も近い先行
技術」に応用し、それにより技術的課題(すなわち、本願発明が解決する「技術的課
題」)を解決するという教示があって、この教示によって、当業者がその技術的課題
に直面したときに、「最も近い先行技術」を改良して本願発明を得ようと動機付けら
れるか否か、であるとされています。先行技術にこのような技術的な教示が有れば、
発明は自明であり、突出した実質的特徴を有しないことになります。

 以下の場合には、通常において、先行技術の中に上記の技術的な教示が存在する、と
されています。
(i) 「相違する特徴」が技術常識である場合。例えば、確定された「技術的課題」を
  解決する慣用手段、あるいは教科書、辞書類などの中に開示された、上記「技術
  的課題」を解決する技術的手段である場合。
(ii)「相違する特徴」が「最も近い先行技術」と関連する技術的手段である場合。例
  えば、同一の対比文献中の他の部分に開示されている技術的手段であって、この
  技術的手段が当該他の部分において発揮する作用が、本願発明において上記「技
  術的課題」を解決するために発揮する作用と同一である場合。
(iii)「相違する特徴」が、別の対比文献中に開示されている、関連する技術的手段
   であって、この技術的手段が当該対比文献において発揮する作用が、本願発明
   において上記「技術的課題」を解決するために発揮する作用と同一である場合。

(II)発明が「顕著な進歩」を有するか否かを評価する際には、主として、発明が
「有益な技術的効果」を有するか否かを考慮すべきであるとして、以下の場合には、
通常において、発明は有益な技術的効果を有し、顕著な進歩を有する、とされていま
す。

(1) 発明が、先行技術と比べて、更に好ましい技術的効果、例えば品質の改善、生産
  量増大、省エネルギー、環境汚染の予防対処など、を有する場合。
(2) 発明が、技術思想の異なる技術的手段を提供し、その技術的効果は、基本的に先
  行技術の水準に達し得る場合。
(3) 発明が、新技術の発展の趨勢を代表している場合。
(4) 発明が、一面ではマイナスの効果を有しているが、他の面では顕著なプラスの技
  術的効果を有する場合。

6.先願主義の規定

特許請求の範囲に記載された発明が互いに同じである2つの出願があれば、後に出願
した方は拒絶されます。先の出願の内容が公開される(出願の1年半年後には公開さ
れる)前に、後の出願がなされておれば、後の出願の発明は、先の出願の内容に基づ
いて新規性や進歩性を問われることはありませんが、後願を理由に拒絶されます。こ
れが「先願主義」(早く出願した者が勝ち、という考え方)と言われる原則です。

日本では特許法39条に規定があり、欧州には欧州特許条約60条2項に規定があり、中
国には改正特許法9条に規定があります。伝統的に先発明主義(早く発明した者が勝
ち、という考え方)を採ってきた米国にはありませんが、同一発明者又は同一譲受人
による2つの出願の間で、クレームが同一であると、二重特許を理由に拒絶されます
(米国特許法101条)。

米国には、クレームが同一でなくても互いに自明な場合にも拒絶する「自明型二重特
許」の拒絶、という実務もあります。これは判例法に基づくものです。自明型二重特
許を理由に拒絶された場合には、ターミナルディスクレーマを提出すれば、拒絶を解
消することができます。ターミナルディスクレーマを提出すると、後の出願による特
許権の存続期間が、先の出願による特許権の存続期間と一緒に満了することになりま
す(つまり存続期間が短くなる)。また、ターミナルディスクレーマを提出すると、
先後2つの特許権を分離して別の人に移転することができない、という制限を伴いま
す。この点、日本の関連意匠の意匠権の扱いに似ています。

7.拡大された範囲の先願の規定

先願主義に基づく規定では、先後2つの出願のクレームの重複が問題とされます。こ
れに対して、先の出願が未だ公開されておらず、公知になっていないときに、後の出
願をして、その後に先の出願が公開された場合には、先の出願のクレームだけでなく
明細書全体(図面も含む)のどこかに記載された発明と同一の発明を、後の出願の特
許請求の範囲に記載しておれば、後の出願は拒絶されます。ただし、先後の出願の間
で、発明者が全員同一(完全同一と称されます)か、出願人が全員同一(完全同一と
称されます)である場合には、適用がありません。この規定は、「拡大された範囲の
先願」の規定と通称されています。日本では特許法29条の2(29条2項とは別の条文で
す)に規定されています。

「先願」の規定とは言っても、先願の明細書に開示された発明と同一の発明に特許を
付与するのは、新規な発明の公開の代償として特許を付与するという特許制度の枠組
みに反する、というのが規定の趣旨ですので、新規性を特許要件とする趣旨と同趣旨
と言えます。他の多くの国では、新規性のない発明の類型として規定されています。
例えば、米国では、特許法改正前は、新規性を規定する特許法102条のうちの(e)項に
規定があり、改正(2013年3月16日施行)後は、同じく新規性を規定する特許法102条
のうちの(a)(2)項に規定されています。欧州では新規性を規定する欧州特許条約54条
のうちの(3)項に規定があり、中国では新規性を規定する改正特許法22条第2パラグラ
フに規定があります。

米国では、特許法改正前は、日本と同様に、発明者(米国では、出願日が2012年9月
16日より前の出願については、出願人は発明者に限られていました)が全員同一であ
る場合には適用がありませんでした(特許法102条(e)項)。特許法改正(2013年3月
16日施行)後は、発明者、出願人のいずれかが同一の場合には、適用がありません
(改正特許法102条(b)(2)(A)項,(b)(2)(C)項)。

より詳細には、特許法改正(2013年3月16日施行)後は、先願に開示される発明が、
後願の発明者又は共同発明者から、直接又は間接的に得られたものである場合(改正
特許法102条(b)(2)(A)項)、先願に開示される発明が、先願の優先日前に、後願の発
明者又は共同発明者により公開されるか、又は後願の発明者又は共同発明者から直接
又は間接的に知得した者により公開されたものである場合(改正特許法102条(b)(2)
(B)項)、及び後願の優先日までに、先後願の間で発明が同一人に帰属していたか、
同一人に譲渡の義務があった(例えば、出願人が同一である)場合(改正特許法102
条(b)(2)(C)項)には、適用がありません。

なお、米国では、先願の出願日は、優先日ではなく米国への現実の出願日である、と
判例により解されていました(ヒルマー法理)が、改正特許法により、後願だけでな
く先願の出願日も優先日とされ(特許法102条(d)項)、ヒルマー法理は効力を失いま
した。

欧州では、発明者や出願人が同一であっても、適用がある点に注意を要します。中国
では、発明者が全員同一でも適用があり、出願人が全員同一である場合に限り、適用
がありませんでしたが、改正特許法(2009年10月1日施行)により、出願人が全員同
一である場合についても、適用されることになりました。自身が過去に出願した内容
が未公開の間に、明細書に記載した一部の発明について新たに特許請求の範囲に記載
して出願すると、自身の先の出願に基づいて拒絶されることになります。日本とは異
なる実務ですので注意を要します。

なお、欧州では、先後の出願の間で指定国が異なっておれば、適用がありませんでし
たが、EPC2000の発効(2007年12月13日)に伴い、このような制限はなくなりました。

出願された発明の進歩性が、先願に記載され出願後に公開された発明によって、否定
されるかについても、国毎に差異があります。日本では、このような「拡大先願」に
記載された発明は、進歩性判断においては、先行技術とはされません(日本特許法29
条2項)。欧州、中国でも日本と同様です(欧州特許条約55条;改正中国特許法22条
第3,5パラグラフ)。

これに対し、米国では、新規性判断の先行技術としての資格を有するもの(改正前・
改正後米国特許法102条に規定される先行技術)は、先願に記載の発明を含めて、進
歩性判断の先行技術ともなります(改正前・改正後米国特許法103条)。但し、改正
前には、先願に記載の発明(改正前特許法102条(e)項に規定の先行技術)について、
後願の発明がなされた時に、先後願の間で発明が同一人に帰属していたか、同一人に
譲渡の義務があった場合には、進歩性判断の先行技術とはしない、という例外が規定
されていました(改正前特許法103条(c)(1)項)。改正後には、先願に記載の発明に
ついて、上記の通り、後願の優先日までに、先後願の間で発明が同一人に帰属してい
たか、同一人に譲渡の義務があった場合(改正特許法102条(b)(2)(C)項)には、新規
性判断の先行技術とはされませんので、改正前に規定された例外は無くなりました。

8.新規性喪失の例外規定(グレース・ピリオド;Grace period)

発明が公知となって新規性が失われる場合であっても、一定の場合には、新規性を失
わないこととして、出願人を保護する制度です。日本では特許法30条に規定がありま
す。自身の発明を刊行物に発表したり、インターネットで発表したり、特許庁長官の
指定を受けている学会(例えば物理学会など)で発表したり、政府や地方自治体が開
設する博覧会に出品したりした場合には、6箇月以内に、新規性喪失の例外の規定を
受ける旨を願書に記載して出願をすれば、新規性を失わなかったものとして扱われま
す。出願から30日以内に、発表した事実を証明する書面を特許庁へ提出する必要が
あります。

日本特許法の改正により、出願日が平成24年4月1日以降の出願については、発明
品の販売など、出願人の行為に起因する幅広い行為が、新規性喪失の例外の規定の対
象となりました。国内優先権の主張を伴う出願では、優先権の効果により出願日が平
成24年4月1日より前であるとの扱いを受ける発明については、従来通りの扱いと
されます。また、国内・外国の特許・実用新案・意匠・商標公報に掲載されたものは、
対象外であることが明確にされています。新規性を失った日から6箇月以内に出願す
べきこと、出願から30日以内に証明書を提出すべきこと、については変わりありま
せん。

自身の意に反して、他人が勝手に発明を公表した場合にも適用があります。この場合
にも6箇月以内に出願をしておかなければなりません。願書に適用を受ける旨の記載
は不要で、事実を証明する書面を出願から30日以内に提出する必要もありませんが、
公表された発明に基づいて拒絶や無効にされようとする場面が到来したら、「意に反
して」公知になったことを主張及び立証する責任を負います。勝手に公表されたこと
は分からないことが多いと思われますので、この意味でも発明が完成したら早く出願
することが大切と言えます。

日本特許法の更なる改正により、新規性喪失の例外期間が6か月から1年に延長され
ました。2018年6月9日以降にする出願が対象となります。2018年6月9日以降の出願で
あっても、2017年12月8日以前に公開された発明については、延長された例外期間は
適用されません。

米国では、特許法改正前から第102条(b)項に規定があり、発明品の販売行為も含めて
幅広い行為に適用があります。しかも、公知となって1年以内に米国出願をすればよ
く、出願人保護が、古くから世界一厚い制度となっています。ワンイヤールール(One
-year rule)と称されています。これは、米国が先願主義ではなく先発明主義を基本
としていたことから、発明の秘匿という先発明主義の弊害を是正するために、出願を
促進する目的で設けられた制度であることに由来します。ワンイヤールールは、先発
明主義から先願主義寄りとなる米国改正特許法の施行(2013年3月16日)後も、残さ
れています。しかも、出願が優先権を主張している場合には、優先日前1年以内の行
為について、ワンイヤールールが適用されるようになりました(特許法102条(b)(1)
(A))。

より詳細には、特許法改正後のワンイヤールールは、出願された発明が、優先日前1
年以内に、出願の発明者又は共同発明者により公開されるか、又は出願の発明者又は
共同発明者から直接又は間接的に知得した者により公開された場合に適用されます
(改正特許法102条(b)(1)(A)項)。更には、優先日前1年以内に公開された発明が、
その公開前に、出願の発明者又は共同発明者により公開されるか、又は出願の発明者
又は共同発明者から直接又は間接的に知得した者により公開されたものである場合に
は、その公開は無いものとして扱われます(改正特許法102条(b)(1)(B)項)。

後者は、自己の出願の優先日前1年以内に他人の公開があっても、それよりも先に自
己が公開しておれば、その他人の公開を排除できることを意味しています。上記「7.
拡大された範囲の先願の規定」に記したように、改正後の米国特許法には、自己の先
公開によって、他人の先願を排除する規定も、設けられています(改正特許法102条
(b)(2)(B)項)。

他人の先公開、先願を排除する、これらの規定は、改正前の先発明主義の要素を、改
正法に一部残しておくことを意図としたものではないか、と思われます。なお、他人
の公開や出願より前にした自己の先公開が、自己の出願の優先日前1年以内になく、
それよりも前であれば、他人の先公開、先願を排除できても、自己の先公開行為には、
ワンイヤールール(改正特許法102条(b)(1)(A)項)が、効かないことになります。従
って、自己の先公開行為も、自己の出願の優先日前1年以内であることを、要するこ
とになります。

米国出願が改正法の適用を受けるか、否かは、請求項毎の優先日によって決まります。
全ての請求項の優先日が、2013年3月16日より前であれば、出願は改正前の特許法の
適用を受けます。請求項のうちの1項でも、その優先日が、2013年3月16日以降であ
れば、出願全体が、改正法の適用を受けます。一旦、改正法が適用されると、優先日
が2013年3月16日以降である請求項を削除する補正をしても、引き続き改正法が適用
されます。改正法が適用された親出願の継続出願、一部継続出願、分割出願も、請求
項の優先日に拘わらず、改正法が適用されます。

韓国は、2006年3月3日に施行された改正特許法により、同じく幅広い行為に適用があ
ります(ただし出願公開公報・特許公報への掲載には不適用)。6箇月以内に出願
をする必要がありましたが、新たな韓国改正特許法の施行(2012年3月15日施行)に
より、6箇月の期間は12箇月となりました。

欧州や中国は、以前の日本と比べても、適用の範囲が狭くなっています。欧州では、
欧州特許条約55条に規定があり、出願人の意に反する場合と、パリ条約同盟国内での
公認の国際博覧会に展示した場合のみが規定されています。6箇月以内に出願し、展
示の場合には出願の際にその事実を記載し、出願から4箇月以内に展示の事実を裏付
ける証明書を提出する必要があります。中国では、改正特許法24条に規定があり、公
認の国際博覧会への出品、所定の学会での発表、出願人の意に反する場合に限られて
います。いずれも6箇月以内に出願する必要があります。


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