Fukumoto International Patent Office


外国特許の手引き〜インド出願〜



           福本 2010年7月24日作成 2011年4月更新

 インドの特許・意匠制度の概略については、「弁理士会国際活動センター・外国情
報部・アジア部会」のインド・台湾担当委員として、台湾の特許・意匠・商標制度と
共に、一昨年度(2009年度)にまとめております。これは、必要な情報をインド国代
理人に求め、その回答内容を整理したものです。弁理士会のサイト
http://www.jpaa.or.jp/about_us/organization/affiliation/kokusai/
gaikokujouhou/report/asia/ 
にアップロードされています。さらに昨年度(2010年度)は、追加情報を「Q&A集」
として同サイトに追加しております。(さらに、2013年4月には最新の回答内容を、同
国際活動センターへ提出しており、公表予定となっております(2014年追記))。ま
ずは、これらの内容をご参照頂くのが、宜しいのではないかと思われます。

 インドには、他の国にはない特異な制度が目に付きます。以下に、インド国に特異
な制度について、補充・解説致します。現行の特許法は、2005年改正法です。

1.特許庁が幾つもある..!!

 インドには、特許庁(支庁を含む)が4つあります。これらの特許庁は、それぞれ
が自身の土地管轄を有しています。国土が東西南北の4つの管轄区域に分けられてお
り、各区域の住民は、自身の区域を管轄する特許庁に特許出願をすることになります。
国土が広大であること、言語(ヒンディ語)に地域差が大きいこと、が理由のようで
す。

 日本国などの外国の出願人については、手続を代理するインド国代理人の土地管轄
によって、出願すべき特許庁が定まります。代理人は、特許庁からの通信の宛先とし
て、送達宛先(address for service)を届け出ており(特許法施行規則5)、この送達
宛先によって、代理人の土地管轄が定まります。外国からの出願を取り扱う代理人は、
幾つかの支所を有し、それぞれに送達宛先を定めていることが多いものと思われます。
そのような代理人であれば、複数の特許庁に出願することも可能となります。

 4つの特許庁は、単なる出願の窓口ではなく、出願の実体審査を独立して行います。
審査の品質について均一性が担保されているのか、については誰もが疑問を持つとこ
ろであろう、と思われます。インド国代理人によりますと、4つの特許庁は、単一の
特許法や審査基準に拘束されているため、審査の質や特許性のレベルは基本的に均一
であり、しかも従来とは異なり、特許や特許出願のデータが電子化され、いずれの特
許庁もこれを参照できるため、差違は大きく改善されている、とのことでした。特許
出願の滞留の少ない特許庁を選択する、といった特許庁の選択はあるようです。特許
庁を選ぶ、ということが全く無い訳ではないようですので、案件毎に、依頼先の代理
人に出願戦略の一環として、議論なさることをお勧め致します。

 4つの特許庁の所在地と、土地管轄は次の通りです(インド特許庁ウェブサイトよ
り)。なお、審判については、どの特許庁に出願したかに関わりなく、Chennai特許庁
に請求しなければなりません。


インド特許庁の土地管轄


 特許だけではなく商標についても、商標庁が複数あり、それぞれが土地管轄を有し、
独立に審査を行っています。下記の商標庁ウェブサイトの情報が示すように、商標庁
は、特許庁の4つの所在地に、Ahmedabadを加えた5箇所にあります。Mumbai特許庁の
管轄内のGujarat、New Delhi特許庁の管轄内のRajasthanが、Ahmedabad商標庁の管轄
に移っています。


インド商標庁の土地管轄


 意匠については、特許と同じく4つの意匠庁があります。4意匠庁の所在地は、4
特許庁と同じです。但し、特許庁とは異なり、Kolkata意匠庁以外の意匠庁はいわば
出願の窓口として機能し、提出された意匠出願はKolkata意匠庁に移送され、Kolkata
意匠庁で実体審査がなされます。

2.英語で出願することができます

 ヒンディ語だけでなく、英語も公用語ですので、特許出願は英語ですることができ
ます(特許法施行規則9(1))。英語でした特許出願について、ヒンディ語の翻訳文を
提出する必要もありません。日本語等の外国語でする出願制度は有りません。インド
国代理人によりますと、PCT出願の誤訳訂正は可能、とのことです。

3.審査請求期間は優先日が起点

 優先日から4年以内に審査請求しなければなりません(特許法施行規則24B(1)(i)
)。期間内に審査請求をしなければ特許出願は取り下げたものとみなされます(特許
法11B(4))。審査請求期間は日本や中国よりも長い4年ではあるものの、中国と同じ
く、起点が優先日であることに注意を要します。

4.特許可能な状態にするのに期限がある..!!

 最初に拒絶理由通知が送付された日を起点として、1年以内に特許出願が特許可能
な状態にならなければ、特許出願は放棄したものとみなされます(特許法21条, 特許
法施行規則24B(4))。インド国代理人によりますと、この期間に延長はないとのこと
です(詳細は上記サイトの「Q&A」ご参照)。

5.進歩性も審査対象

 インド国代理人によりますと、産業利用可能性、新規性、進歩性は、いずれも特許
要件とされ、特許付与前異議申立の有無に関わりなく、審査の対象とされます(詳細
は上記サイトの「Q&A」ご参照)。

 出願日よりも先に出願され、同日又は後に公開された出願の特許請求の範囲に記
載された発明と同一の発明は特許されません(特許法13条(b),25条(1)(c))。イン
ド国代理人によりますと、この規定は、出願人、発明者が同一であっても例外とはさ
れません。これは、我が国でいう先願主義の規定に相応するものと言えます。特許付
与後の異議申立理由ともなっています(特許法25条(2)(c))。また、特許発明が、特
許された先願に係る有効な特許請求の範囲に記載されておれば、特許無効の理由とな
ります(特許法64条(1)(a))。

 「進歩性」については、定義が設けられており、「“進歩性 (inventive step)”
とは、既存の知識に比して技術的進歩(technical advance)を含むか、又は経済的重
要性(economic significance)を有するか、あるいはこれら双方である発明であって、
当技術分野の技能を有する者にとって自明(obvious)ではない発明の特徴を意味する。」
(特許法2条(1)(ja))とされています。

6.猶予期間の長い新規性喪失の例外規定

 日本と同様に、新規性喪失の例外規定があります。しかし日本とは異なり、新規性
を喪失する行為の発生から12箇月以内に出願することが許されます。例外規定の適
用範囲は、日本とおおよそ同等内容となっています。例えば、出願人又はその前権原
者の同意を得ないで、優先日前に発明が公開された場合(特許法29条(2)(a))、中央
政府が例外規定の適用を公示した博覧会に、発明者又はその権原継承者の同意を得て
発明を展示した場合(特許法31条(a))、発明者が学会に発明を論文発表した場合
(特許法31条(d))、出願人又はその前権原者が、妥当な試験(reasonable trial)を
目的として、かつ発明の性格から公然実施の必要性が妥当なものとして、インド国内
で公然と実施した場合(特許法32条(a))、などが適用の対象とされます。

 一方、妥当な試験を目的とすることなく、出願人やその同意を得た者によって、イ
ンド国内で業として優先日前に実施されたもの(特許法29条(2)但し書き)などは除
かれます。したがって、インド国内で出願人が発明品を販売した場合などは、適用の
対象外とされます。日本と同様に、米国や韓国ほど適用範囲は広くない、と言えます。

7.二つの異議申立制度がある..!!

 特許付与に対する異議申立制度として、特許付与前の異議申立(特許法25条(1))
と、特許付与後の異議申立(特許法25条(2))との、二つが有ります。特許付与前の
異議申立は、出願公開後、特許付与までの間にすることができます(特許法25条(1)
柱書)。特許付与後の異議申立は、特許付与の公告から1年の間にすることができま
す(特許法25条(2)柱書)。特許付与前の異議申立は、何人もすることができますが
(特許法25条(1)柱書)、付与後の異議申立は、利害関係人であることが要件とされ
ます(特許法25条(2)柱書)。

 異議申立理由は、特許付与前と付与後との間で、同一となっています(特許法25条
(1)(a)〜(k), (2)(a)〜(k))。例えば、出願に係る発明が、(b)(d)(k) 新規性のない
発明、(c) 優先日以後に公開された先願の特許請求の範囲に記載された発明、(e) 進
歩性のない発明、(a) 利害関係人から不正に知得した発明であること; 完全明細書
に、(g) 発明又はそれを実施する方法が十分かつ明確には記載されていない、(j) 発
明に使用された生物学的素材の出所又は地理的原産地について開示せず又は誤って記
載していること;などを異議申立理由とすることができます。

 異議申立は、何れも所轄庁にすることとなっています(特許法施行規則55(1), 
55A)。特許付与前の異議申立の審査は、特許庁長官の名で行われ、特許出願につい
て審査請求がなされたときに限り、行われます(特許法施行規則55(2))。拒絶すべ
き場合には、申立の写しとともに、その旨が出願人に通知され、反論、補正の機会が
与えられます(特許法施行規則55(3), (4))。

 特許付与後の異議申立があると、特許権者に通知されます(特許法25条(3)(a))。
異議申立人は、異議申立の理由書を、異議申立書とともに所轄庁に送付すると共に、
理由書の写しを特許権者に送達します(特許法施行規則57)。特許権者は、答弁書を
所轄庁に提出することができ、その場合には、答弁書の写しを異議申立人に送達しま
す(特許法施行規則58)。異議申立人はさらに、答弁書に対して弁駁書を所轄庁に提
出することができ、その場合には、その写しを特許権者に送達します(特許法施行規
則59)。特許付与後の異議申立については、3名から成る異議部(Opposition Board)
が編成され、この異議部で審理が行われます(特許法25条(3)(b), (c); 特許法施行
規則56(1))。

8.秘密裏の先使用があっても特許無効理由となる..!!

 特許付与後の異議申立とは別に、特許を無効にする制度も有ります。特許の無効は、
利害関係人(もしくは中央政府)の申立により、特許庁審判部がすることができるだ
けでなく、特許侵害訴訟において特許無効の反訴が提起されれば、反訴とともに訴訟
が移送される高等裁判所もすることができます(特許法64条(1)柱書, 104条)。

 無効理由の中で注目されるのは、秘密裏に使用していた先使用者があっても、特許
無効の理由となる点です。すなわち、優先日前に特許発明と同一の発明について、特
許権者又は許諾を受けた者から開示を受けることなく、インド国内で秘密裏に使用さ
れていた場合も特許無効の理由となります(特許法64条(1)(l),(3)(c))。

9.外国出願情報の提供制度があります

 インドへの特許出願と実質的に同一の発明について、インド国外への特許出願があ
る場合には、その情報を特許庁に提出する必要があります(特許法8条(1))。インド
出願前の外国出願だけでなく、インド出願後の外国出願についても、インド特許の付
与日まで情報の提供を要します(特許法8条(1)(b))。情報の提供は、インド出願日
から6箇月以内、さらに新たな外国出願の日から6箇月以内に、提出することを要し
ます(特許法施行規則12(1A), (2))。

 特許庁長官は、インド特許の付与又は特許付与拒絶まで、インド以外の国への特許
出願の処理状況について、情報を提供するよう求めることができます(特許法8条
(2))。出願人は、命令の日から6箇月以内に、必要とされる情報(拒絶理由通知や
許可クレームなど)を提出することを要します(特許法施行規則12(3))。


10.仮出願制度があります

 発明の開示は求められます(特許法10条(1))が、クレームが不要であるなど、形
式的に簡略化された「仮明細書(provisional specification)」を添付してインド特
許出願をすることができます。「仮明細書」を添付した出願の日から、12箇月以内
に、所定の形式を整えた「完全明細書(complete specification)」を提出する必要が
あります(特許法9条(1))。「完全明細書」の各クレームの優先日は、当該クレーム
発明が「仮明細書」に記載されておれば、「仮明細書」の提出日となります(特許法
11条(1))。

11.追加特許制度があります

 特許出願の完全明細書に記載された発明(主発明; main invention)の改良
(improvement) 又は変更(modification) について、同一出願人が同日又は後日にす
る特許出願について、出願人は追加特許(patent of addition) の付与を求めること
ができます(特許法54条(1))。追加特許は、出願前に公開されたり実施されたりし
た、主発明や他の追加特許に記載された改良又は変更に基づいて、進歩性が否定され
ることはない(拒絶、取消、無効の理由とされない)、という利点があります(特許
法5 6条(1))。追加特許の存続期間は、主発明の特許の存続期間の満了日に満了しま
す(特許法55条第1文)。このように、追加特許は、我国の関連意匠の意匠登録に類
似しています。

12.提出書類の書式..ダウンロードできます!

 特許庁への手続に要する手数料、及び手続きの書式 (Form 1 - 27) は、特許法施
行規則に付属しています。インド特許庁の次のウェブページからダウンロードするこ
とができます。
http://ipindia.nic.in/ipr/patent/patent_FormsFees/index.htm


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