Fukumoto International Patent Office


外国特許の手引き〜韓国出願〜



     福本 2010年1月26日作成 2012年4月, 2018年10月,2019年6月更新

 韓国特許法・実用新案法は、日本法をそのままコピーしたような規定が少なくな
く、我々日本人には、条文の表現自体がなじみ易いものとなっています。しかし、
韓国ではこのところ、法改正が頻繁に行われており、それにともない、日本風の規
定から一層離れて、独自の制度を追求する傾向にあるように思われます。最新のも
のは、特許・実用新案ともに2017年3月21日に公布された改正法です。

 韓国でも日本と同様に、特許出願後の一定期間後に出願内容が公開され、一定期
間内に審査請求があれば、新規性、進歩性、記載要件などについて実体審査が行わ
れます。拒絶すべき理由があれば、拒絶査定の前に拒絶理由が出願人に通知されま
す。また、拒絶査定に不服があれば審判を請求することができ、さらに審判の決定
に不服であれば、裁判所に出訴することができます。特許の存続期間は、出願日か
ら20年後に満了します。特許を無効にする無効審判制度もあります。

 このように特許制度の大枠については、日本と同様と言えます。以下では、日本
と対比したときの主な特徴点について列挙します。

1. 「世界公知」(2006年10月1日より施行)

 発明が刊行物に記載された場合(刊行物公知)だけでなく、公然知られた場合
(公知)や、販売行為など公然実施された場合(公用)であっても、それが韓国内
だけでなく世界のどこで行われても、新規性のない発明となります。2006年10月1
日に施行された改正法により、この「世界公知」が導入されました(特許法29条
1項2号)。日本では2000年1月1日に施行されています。

2. 適用範囲の広い新規性喪失の例外規定(2006年3月3日より施行)

 特許を受ける権利を有する者の行為により、発明が新規性を喪失した場合には、
原則として、販売行為等も含めたあらゆる行為について、新規性を喪失しないもの
として扱われます。但し、韓国内外の出願公開公報、特許公報に掲載されたものは
対象外とされます。また、特許を受ける権利を有する者の意に反して、発明が新規
性を喪失した場合についても、改正前通りに、新規性を喪失しないものとして扱わ
れます。

 いずれの場合であっても、日本と同様に、新規性を喪失した日より6箇月以内に
出願をしなければなりません。また特許を受ける権利を有する者の行為により、発
明が新規性を喪失した場合には、日本と同様に、出願時に例外規定の適用を受けよ
うとする旨の意思表示を要し、出願日から30日以内に証明書を提出する必要があ
ります。(以上、特許法30条)

 うっかりと特許出願前に、ご発明品を販売なさったときでも、少なくとも米国と
韓国については、特許出願を検討する価値があると言えます。

 なお、「6箇月」の猶予期間は、2012年3月15日に施行された改正特許法により、
「12箇月」へ延長されました。

3. 拡大先願の規定

 出願日よりも先に出願され、後に公開された出願に記載された発明と同一の発明
は、日本と同様に特許を受けることができません。但し、発明者が同一である場
合、又は出願人が同一である場合には、日本と同様に適用がありません。(特許法
29条3項)

4. 出願公開制度

 出願日(優先権の主張を伴う場合には先の出願日)から1年6月後に出願が公開さ
れます。出願人の請求によって公開を早めることもできます(特許法64条)。出
願公開にともなって、警告後あるいは出願公開された発明であることを知った後に
出願に係る発明を実施した者に対し、特許権の登録後に、実施料相当額の補償金の
支払いを請求することができます(特許法65条)。何れも、日本と同様です。

5. 審査請求期間

 実体審査の請求をすることのできる期間は、日本とは異なり出願日から5年で
す。日本と同様に、出願人だけでなく何人も審査請求をすることができます(特許
法59条2項)。なお、出願日から5年の審査請求期間は、優先権の主張を伴う出
願であっても、韓国特許庁への現実の出願日から5年です(特許法54条1項、同
55条3項)。

 2016年2月29日に公布された改正特許法により、審査請求期間は、5年から3年
に改められました。3年の審査請求期間は、2017年3月1日以降の出願が、対象とな
ります。優先権の主張を伴う出願であっても、韓国特許庁への現実の出願日が、審
査請求期間の基準である点に、変わりはありません(韓国代理人に確認済み)。

6. 実用新案の実体審査制度(2006年10月1日より施行)

 2006年10月1日より施行された実用新案法により、実用新案制度は、それまでの
実体審査のないものから、特許と同様に実体審査を伴うものへと作り替えられまし
た。審査請求期間は、出願から3年です(実用新案法12条2項)。実用新案登録
の対象は、物品の形状、構造、又は組合わせ、とされており(実用新案法4条1項
柱書)、日本と同等と言えます。実用新案権の存続期間は、出願から10年後に満
了します(実用新案法22条1項)。

 なお、実用新案登録出願の当初請求範囲に記載した範囲で、出願日から実用新案
登録日後1年までに、特許出願をすることができ(改正前特許法53条)、特許出
願の当初明細書に記載した範囲で、出願日から特許査定謄本の送達前、又は最初の
拒絶査定謄本の送達日後30日までに、実用新案登録出願をすることができる(改
正前実用新案法17条)、という「二重出願」制度は、2006年10月1日に施行され
た改正法により廃止されています。代わりに、日本と同様に、実用新案登録出願か
ら特許出願への変更(改正特許法53条)、特許出願から実用新案登録出願への変
更(改正実用新案法10条)を認める制度が導入されています。

7. 再審査請求制度(2009年7月1日より施行)

 出願人は、拒絶査定の謄本送達日後30日以内に、拒絶査定不服審判を請求する
ことができます(特許法132条の3)。改正前は、審判請求後30日以内に明細
書の補正をすることができ、補正がなされると審査官による前置審査が行われてい
ました(改正前特許法47条1項、同173条)。2009年7月1日に施行された改
正法により、最初の拒絶査定謄本の送達日後30日以内に、明細書の補正をすると
ともに、再審査を請求することができることとなりました(改正後特許法67条の
2)。再審査の請求をせずに、審判を請求することもできますが、この場合には、
明細書の補正はできなくなりました(改正後特許法47条1項)。再審査後に再
度、拒絶査定謄本の送達があった場合には、30日以内に審判を請求することは可
能ですが(明細書の補正は不可)、再審査の請求はできません。

8. 発明の単一性

 単一の一般的発明概念を形成する一群の発明は、単一の出願に盛り込むことがで
きます(特許法45条)。単一の一般的発明概念を形成する一群の発明とは、相互
関連性があり、先行技術から改善された同一又は対応する技術的特徴を有する発
明、とされています(特許法施行令6条)。少なくとも法令上の規定は、日本と同
じと言えます。

9. 明細書・図面の補正(2009年7月1日より施行)

 明細書・図面の補正は、原則として特許査定の謄本の発行前には、することがで
きますが、拒絶理由通知を受けた後は、(1) 最初の拒絶理由通知に対する意見書提
出期間、(2) 最後の拒絶理由通知に対する意見書提出期間、(3) 再審査の請求をす
るとき、に限られます(特許法47条1項)。日本と同様に、出願当初の明細書・
図面に記載された範囲を超える補正(新規事項を追加する補正)は許されません
(同47条2項)。

 上記(2), (3) の場合に特許請求の範囲を補正するときは、次の場合に限られま
す(同47条3項)。
(i) 特許請求の範囲の削除、又は特許請求の範囲に要素を付加することによる特許
請求の範囲の減縮;
(ii) 誤記の訂正;
(iii) 不明瞭な記載の明確化;
(iv) 補正が出願当初の明細書・図面に記載された範囲を超えている場合に、特許
請求の範囲を補正前の範囲に戻すか、又は戻しつつ特許請求の範囲を(i)〜 (iii)
に従って補正する場合。(傾斜文字部分は、韓国特許庁ウェブサイトに掲示される
英語版現行韓国特許法から、一部の記載が脱落しており、意味不明のため、韓国代
理人の教示に基づく)

 上記(2), (3)の場合にする補正は、 (I) 明細書又は図面の補正が、特許請求の
範囲を実質的に拡張し又は変更しないこと、及び (II) 補正後の特許請求の範囲に
記載された事項が、特許出願の際に特許を受けることができるものであること、と
いう要件(改正前特許法47条4項)は、2009年7月1日に施行された改正法により
削除されました。

 上記(2), (3)の場合にする補正が、補正の内容的制限(特許法47条2項又は3
項)に違反しておれば、この補正は却下されます(特許法51条)。独立特許要件
(II)が削除された代わりに、上記(2), (3)の場合にする補正が、上記(i), (iv)
の特許請求の範囲を削除する場合を除いて、新たな拒絶理由を生じるときにも、補
正は却下されることとなりました(特許法51条)。

 韓国代理人によりますと、法改正により、上記(2), (3)の場合にする補正につい
て、出願人様にとって以下のメリットが得られることとなりました。まず、特許請
求の範囲に外的付加を伴う減縮補正を行っても、新たな拒絶理由を生じない限り、
補正が却下されることはなくなりました。また、新規事項が追加された特許請求の
範囲を元に戻す補正を行っても、補正が却下されることはなくなり、いわゆる「逃
れられない罠(わな)」の問題が解消されました。さらに、上位請求項を削除した
ことによって、これに従属する複数の下位請求項の間で、単一の一般的発明概念を
形成せず、発明の単一性を充足しない場合でも、補正が却下されることはなくなり
ました。

10. 分割出願(2009年7月1日より施行)

 (i) 明細書・図面の補正のできるとき、及び (ii) 拒絶査定後の審判請求期間
に、出願当初の明細書・図面に記載した範囲内で、分割出願をすることができます
(特許法52条1項)。明文をもって規定されるように、(ii)の明細書・図面の補
正ができないときの分割出願であっても、分割出願の基準明細書は出願当初のもの
に限られ、直前明細書は基準明細書とならない点で、日本よりも柔軟と言えます。

11. 国内優先権

 日本と同様に国内優先権の制度があります。先に韓国にした出願係属中の特許・
実用新案登録出願に基づいて、その出願日から1年以内に優先権主張を伴う特許・
実用新案登録出願をすることができます(特許法55条1項、実用新案法11条で
準用する特許法55条1項)。日本と同様に、先の出願をした日から1年3箇月を
経過したときに、先の出願は、係属中であれば取り下げられたものとみなされます
(特許法56条1項、実用新案法11条で準用する特許法56条1項)。

12. 外国語書面出願制度

 日本と異なり、英語などの外国語で出願する制度はありませんでした。また、日
本とは異なり、PCT出願(国際出願)の翻訳文について、出願当初の国際出願の
内容に基づいて誤訳を訂正する制度もありませんでした。
 しかし、法改正により、2015年1月1日以降の出願については、英語での外国語書
面出願が可能となりました(特許法42条の3第1項;特許法施行規則21条の2第1項)。
また、外国語書面出願及びPCT出願について、誤訳訂正も可能となりました
(特許法42条の3第6項;同法201条6項)。

13. 多数項従属請求項の記載

 複数の請求項に従属する請求項(複数従属請求項)を記載することは可能です
が、従属先の複数の請求項の中に、複数従属請求項を含む記載は許されません(特
許法施行令5条4〜6項)。すなわち、シングル・マルチはOKですが、マルチ・
マルチは不可です。この点、中国と同様です。

14. 無効審判

 利害関係人は、特許無効の審判を請求することができます(特許法133条1
項)。2006年10月1日に施行された改正法により、特許異議申立制度が廃止された
ことに伴い、特許権の設定登録が公報に掲載された日から3箇月以内であれば、利
害関係人に限らず何人でも、特許を受ける権利を有する者以外による出願(いわゆ
る冒認出願)、及び共同出願違反を除く無効理由について、特許無効の審判を請求
することができるようになりました(同133条1項)。

15. 訂正審判と訂正請求

 日本と同様に、特許後に明細書・図面を訂正する訂正審判制度(特許法136
条)、特許無効の審判が係属しているときの訂正請求制度(特許法133条の2)
があります。利害関係人は、不適法な訂正審判請求又は訂正請求について、訂正無
効の審判を請求することができます(特許法137条)。

16. 権利範囲確認審判

 日本の判定制度に似た、権利範囲確認審判制度があります。特許権者のほか、排
他的ライセンシー及び利害関係人も請求することができます(特許法135条)。

17. 国際出願の国内移行期間

 PCT出願(国際出願)の韓国への国内移行手続のできる期間は、31箇月(2
年7箇月)です。国際出願の韓国語翻訳文は、この期間に提出しなければなりませ
ん(特許法201条1項、203条1項)。2006年3月3日施行の改正法により、そ
れまでの30箇月から31箇月に改められました。


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