Fukumoto International Patent Office


外国特許の手引き〜中国出願〜




                      福本 2009年12月7日作成

中国では、特許、実用新案、意匠を含めて「専利法」に規定されています。この20
09年10月1日には、改正専利法が施行されました。

中国でも日本と同様に、特許出願後の一定期間後に出願内容が公開され、一定期間内
に審査請求があれば、実体審査が行われます。新規性の判断は、改正法施行後は、日
本と同様に世界ベースとなりました(発明品の販売行為などが中国以外の国で行われ
ても新規性を失う)。また、進歩性も特許要件の一つとなっています。日本と同様
に、拒絶すべき理由があれば、拒絶査定の前に拒絶理由が出願人様に通知されます。
また、拒絶査定に不服があれば審判を請求することができ、さらに審判の決定に不服
であれば、裁判所に出訴することができます。特許の存続期間は、出願日から20年
後に満了します。特許を無効にする無効審判制度もあります。

このように特許制度の大枠については、日本と同様と言えます。以下では、日本と対
比したときの主な特徴点について列挙します。

1. 特許出願がなされると、日本の方式審査に相当する初歩審査が行われます(法3
4条)。ただし日本とは異なり、書類の方式だけを審査するのではなく、日本の実体
審査に近い審査が行われます。例えば、発明が不特許事由(疾病の診断及び治療方法
など)に該当しないか、発明の単一性を満たしているか、新規事項を追加する補正が
なされていないか、明細書や特許請求の範囲が記載要件を満たしているか(明細書に
実施可能な程度に発明が記載されているか、特許請求の範囲の記載が明細書に基づい
ているか、など)が審査されます(2008年11月4日実施条例修正草案49条;修正前
も44条に規定)。

2. 実体審査の請求をすることのできる期間は、日本と同じく出願から3年です(法
35条)。ただし、優先権主張を伴う出願では、先の出願(例えば日本出願)の日か
ら3年となります(2008年11月4日実施条例修正草案15条;修正前も10条に規
定)。この点、日本とは異なります。日本出願をして、その後優先権主張のできる1
年の期間の満了日近くに中国出願をする場合には、中国出願の日から約2年以内に審
査請求をしなければなりません。PCT出願をし、国内移行期間(出願日から2年6箇
月;日本出願などの先の出願についての優先権主張を伴う場合には、先の出願日から
2年6箇月)の満了日近くになって、中国に国内移行の手続をする場合には、優先権
主張の有無に関わりなく、審査請求できる期間は6月ほどしか残らないこととなりま
す。注意を要します。

3. 上記の通り改正法により、新規性の判断基準は、発明が刊行物に記載された場合
(刊行物公知)だけでなく、発明品の販売などの公然実施があった場合や、発明が公
衆に知られた場合についても、世界ベースとなりました(法22条2項、5項)。発
明品の販売などが中国以外の国で行われても、新規性の無い発明となります。なお、
日本では2000年1月1日に施行されています。

4. 発明を公表したことにより新規性が失われた場合に、例外的扱いを受けることの
できる行為の範囲が、日本よりも狭くなっています(法24条)。

(1)	政府主催等の国際的博覧会へ出展した場合;
(2)	定められた学術・技術会議で発表した場合;
(3)	出願人様の意に反して他人が公知にした場合;
に限って、新規性喪失の例外規定の適用が認められます。日本と同様に、これらの公
表が最初に行われてから6月以内に出願する必要があります。

5. 出願日よりも先に出願され、後に公開された出願に記載された発明と同一の発明
は、日本と同様に特許を受けることができません。ただし、発明者様が全員同一であ
っても、出願人様が全員同一であっても例外ではない点で、日本とは異なります(法
改正前は、出願人様が全員同一である場合には適用がありませんでした)(法22条
2項)。ご自身が先に中国に出願しているときには、出願公開がなされる前であって
も、明細書に記載した一部の発明について新たに特許請求の範囲に記載して中国に出
願をしますと、ご自身の先の中国出願に基づいて拒絶されることになります。欧州
(EPC)出願と同様の注意を要します。

6. 出願の補正は、(1) 実体審査の請求をするとき、(2) 実体審査への移行通知の受
領日から3箇月以内には、自発的にすることができます(2008年11月4日実施条例修
正草案55条;修正前も51条に規定)。日本と同様に、拒絶理由通知への応答期間
にも、出願の補正をすることができます。ただし、この場合には、拒絶理由通知に指
摘された事項と無関係に補正をすることはできません(2008年11月4日実施条例修正
草案55条;修正前も51条に規定)。なお日本と同様に、出願当初の明細書・特許
請求の範囲に記載された事項を超えてする補正(新規事項の追加)は許されません
(法33条)。

7. 中国で完成した発明については、所定官庁の秘密審査を受けてからでなければ、
外国に出願することができません(法改正前は、まず国内出願をする必要がありまし
た)。違反があると、その発明については、中国出願をしても特許を受けることがで
きなくなります(法20条)。

8. 日本と同様に実用新案登録制度があります。実用新案登録の対象は、物品の形
状、構造、それらの組合わせ、とされており(法2条3項)、日本と実質的に変わり
がないと言えます。また、日本と同様に実体審査は行われずに登録されます(法40
条)。ただし、特許出願と同様に、実体審査に近い初歩審査が行われます(法40
条;2008年11月4日実施条例修正草案49条;修正前も44条に規定)。実用新案権
の存続期間は、日本と同様に出願日から10年後に満了します(法42条)。

9. 実用新案権付与の決定が公告された後に、実用新案権者またはライセンシーは、
技術評価書の請求をすることができます(2008年11月4日実施条例修正草案58条。
修正前55条では、実用新案権者が実用新案検索報告書を請求できるのみ。)。技術
評価書は公開されます(2008年11月4日実施条例修正草案58条)。中国代理人によ
りますと、日本とは異なり、実用新案権の行使の際に、技術評価書の提示は義務づけ
られていない、とのことです。

10. 同一の発明について、同一の出願人様が実用新案と特許とを同日に出願するこ
とができます。この場合には、通常は、実用新案が出願後まもなく登録され、その後
に、特許出願の審査の結果が明らかになることとなります。特許出願について他の拒
絶理由が解消されておれば、出願人様は実用新案権を放棄することにより、特許を取
得することが可能となります。改正法により明らかにされました(法9条)。双方の
出願には、それぞれ別の出願があることを、出願時に陳述しておく必要があります
(2008年11月4日実施条例修正草案19条)。このように出願人様は、実用新案権か
ら特許権へと、つなぎ目なく乗り移ることができます。

11. 分割出願は、特許・実用新案の登録手続をすることのできる期間まで、すること
ができます(2008年11月4日実施条例修正草案47条;修正前も42条に規定)。日
本とは異なり、特許と実用新案との間で出願を変更することはできません。

12. 日本と同様に国内優先権の制度があります。先に中国にした特許・実用新案登録
出願に基づいて、その出願日から1年以内に優先権主張を伴う特許・実用新案登録出
願をすることができます(法29条2項)。ただし日本とは異なり、国内優先権主張
を伴う出願をした日に、先の出願は取り下げられたものとみなされます(2008年11月
4日実施条例修正草案39条;修正前も33条に規定)。

13. 日本と異なり、英語などの外国語で出願する制度はありません。日本語でPCT
出願をして、中国へ国内移行した場合には、(1) 出願公開の準備が完了する前、(2) 
実体審査への移行通知の受領日から3箇月以内に、日本語の出願明細書に基づいて自
発的に誤訳の訂正をすることができます(2008年11月4日実施条例修正草案126
条;修正前も110条に規定)。しかし、出願人様が誤訳に気が付くのは、拒絶理由
通知が届いてから、というケースが多いものと思われます。通常の中国出願だけでな
く、PCT出願の国内移行時の翻訳文についても、誤訳には十分な注意が必要といえ
ます。

14. 共有の特許権については、共有特許権者の間に契約がなければ、各特許権者は単
独で特許発明を実施することができ、他人に非独占的実施権を許諾することができま
す。実施権を許諾した場合には、その実施料は共有特許権者の間で分配しなければな
りません。共有特許権の権利行使に関するその他の行為、例えば独占的実施権の許
諾、特許権の譲渡については、共有者全員の同意を要します。改正法に新たに盛り込
まれたものです(法15条)。

15. 遺伝子資源によって完成された発明については、出願人様は出願書類の中に、遺
伝子資源の直接の出所と、大元の出所とを説明する必要があります。大元の出所につ
いて説明できない場合には、その理由を記載する必要があります。改正法により定め
られました(法26条5項)。発明が遺伝子資源に依拠したものであることを願書に
記載し、所定の書式に遺伝子資源の出所を記載します(2008年11月4日実施条例修正
草案32条)。

16. 方法の発明についての特許権の効力は、その方法により直接に得られた製品にも
及びます(法11条)。

17. 改正法により、それまで司法解釈で認められていたボーラー条項(医薬等の承認
を得るために必要な情報を得るための製造、使用等行為を非侵害とする)が明文化さ
れました(法69条5号)。

18. 改正法により、特許権者が特許発明を実施しないときに第三者に強制実施権を付
与する制度が強化されました(法48条、50条など)。

19. 改正法により、侵害裁判で、被疑侵害者が特許の新規性の欠如を立証すれば、裁
判所は非侵害を認定することができるようになりました(法62条)。


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