Fukumoto International Patent Office


外国出願を見据えた特許明細書の書き方



             福本 2007年9月作成 2013年3月更新

(1) 米国出願に照準を定めて

 特許の観点での主要国の中で、いろいろな意味で記載の要件が最も厳しいのが米国
です。また、外国出願をする場合に、技術先進国であり巨大市場でもある米国への出
願が無用であるケースは、多くはないのでは、と思われます。そうであれば、特許明
細書の記載は、米国出願に合わせておけば足りる、ということになります。外国出願
の可能性のあるご発明については、日本出願の段階から、米国出願を見据えた記載に
しておくのが望ましく、効率的でコスト削減につながります。 

 国毎の出願の特許明細書については、実質的内容を変更することなく、形式的な修
正のみを加えれば足ります。形式的な修正の主なものは、次の通りです。 

 (i) 国毎に異なる多数項従属形式の可否に応じて、請求項の従属形式の書き換え。
下記(9)をご参照)

 (ii) ソフトウェア発明について、保護を受け得る形態が国毎に異なることに対応
して、請求項の追加、削除。(下記(8)をご参照)

 (iii) 米国については、「Summary(発明の概要)」の記載を簡素にするための書
き換えが望ましい(全ての国について同様に対応しても支障なし)。(下記(6)をご
参照)

(2) 明細書全体を通じた心掛け

 外国出願は英語等の外国語でしなければなりませんので、翻訳のことを念頭に置い
て、日本語明細書を作成する必要があります。英語表現を意識しながら明細書を記載
することは、論理的で分析的な言語に整合するように記載することにつながりますの
で、あいまいな記載を排除して、明細書の記載を明確化することにも資することとな
ります。日本語明細書としても、記載要件に照らして好ましいものとなります。

 注意点を列挙しますと、次の通りです。

(i) 主語を欠かさない。

日本特許公報には、主語のない文が少なからず見受けられます。英文では、主語のな
い文は原則として許されませんので、何らかの主語を当てることになります。日本語
明細書に主語がなければ、誤訳の原因になります。

(ii) 文は短く。

長い文は、論理関係が複雑となり、誤訳の原因となります。また、読み手の誤読の原
因ともなります。等位接続詞(英語のand, but, or, for, soの5つ)のうち、and, 
orで結ばれる重文では、長くなっても論理関係が不明確になる心配は、さほどにあり
ませんが、それ以外の等位接続詞で結ばれる重文、あるいは従位接続詞(英語の
because, although, if, when, as …など)で結ばれる複文では、長くなるほど主従
関係が多重化することとなり、複雑な文になってしまいます。文が長くなりそうなと
きは、2以上の文に切ることを検討すると良いでしょう。

(iii) 修飾・被修飾の関係を明快に。

翻訳者の誤訳の原因の半分以上が、修飾・被修飾の関係の取り違えにあります。「ク
ライアント端末のアクセスを受け付けるネットワークに接続されたサーバ装置」で
は、「受け付ける」が「ネットワーク」に係るのか、「サーバ装置」に係るのかが、
技術の専門家ではない翻訳者には分かりづらく、誤訳の原因となります。「ネットワ
ークに接続され、クライアント端末のアクセスを受け付けるサーバ装置」とすれば、
誤訳を防ぐことができます。また、日本語としても、より明瞭で望ましい記載となり
ます。

この書き換えの秘密がお分かりでしょうか?よく知られた『長い修飾語ほど前に置く』
という法則には、この例は当てはまりません。前の修飾語の方が、むしろ短くなって
います。同一の体言を修飾する連体修飾語が並ぶと、一般に修飾被修飾の関係が不明
確になります。このため、一部を連用修飾語にして前に置いているのです。このよう
に、連用−連体修飾語の順序にすることによっても、修飾被修飾の関係を明確にする
ことができます。その本質は、並列的な修飾被修飾の関係を、形式上、直列的な関係
に置き換えることにあります。適宜、お使いになると良いと思います。

(iv) 日本固有文化に依拠した名称・表現を避ける。

日本人にしか分からないものに喩える表現(例えば「イ」字型)は、訳出が困難で
す。日本出願で、「六角板状の」と書くべきところを、西海国立公園銘菓「九十九島
せんペい」状の、と書く人は、長崎県人の中にも居ないだろうと思います。ローカル
な視点から、グローバルな視点への切り替えが必要です。「扇状」は、米国のネイテ
ィブの出願にも、”fan-shaped”というのがあり、問題ないようです。

(3)「背景技術」の欄の記載

 公知技術でないものを”prior art”として記載しないことが大切です。米国で
は、”prior art”として記載したものは、出願人自身が認めた先行技術(Applicants
Admitted Prior Art)と解され、出願人に不利となります。自社内での実施技術や、
発明の前提として想定した技術については、実施の形態欄に記載する工夫をするのが
無難であると言えます。それが不可で「背景技術」欄に記載せざるを得ない場合に
は、未公開の社内実施技術や想定技術であって、”prior art”ではないことを明言
しておくことが大切です。

(4)「実施の形態」の欄の記載

 実施の形態欄の記載について、注意点を列挙すると以下の通りです。

(i) 開示を具体的に。

米国出願でも、日本出願と同様に、当技術分野の技術者が発明品を作り、使用できる
ように記載することが求められます(米国特許法112条第1パラグラフ)。しかしそ
の程度は、日本出願よりも、より詳細で具体的な開示が求められている、と言われて
います。具体化に乏しい抽象的な発明の記載に止まることのないよう、留意する必要
があります。当方の経験では、日本出願として普通に十分な程度に開示したものが、
米国で実施可能要件違反を問われたことはありません。普通にしっかり書いておけば
支障ないレベルか、という感想です。

(ii) ベストモードを記載すること。

発明者様が認識する最良の形態(Best Mode)が記載されていることを要します(米
国特許法112条第1パラグラフ)。日本特許法でも、施行規則レベルで「最良の形
態」を記載するよう求めていますが、違反があっても拒絶・無効の理由とはされませ
ん。しかし、米国では「ベストモード」違反があれば、特許無効または権利行使不能
とされます。また、米国では特許権侵害訴訟の提起があれば、ディスカバリー手続に
よって、双方当事者とも全てが明るみにされますので、隠し通すことは困難です。こ
のことを念頭に置いて、発明者様が最良とお考えの形態を、正直に開示しておくこと
が大切です。なお、米国特許法の改正により、2011年9月16日以後に提起される訴訟
では、ベストモード要件不充足を特許無効の抗弁とすることはできなくなりました。
ただし、特許庁での審査の段階では、今後も特許要件として存続することになります。

(iii) 1は・・・・、2は・・・・、という記載をしない。

日本出願明細書でも、「1はネットワークであり、2はサーバ装置であり...」と
いう記載形式は、少なくなってきているように思います。米国で、このような記載
が、記載不備に問われるわけではありませんが、余り一般的ではない(米国風ではな
い)、という印象を受けます。「本実施の形態のシステムは、ネットワーク1、サー
バ装置2、..を有している。ネットワーク1は、..」と記載すれば足ります。

(5) 「特許請求の範囲」の欄の記載

 特許請求の範囲の記載は、日本特許明細書との相違が最も大きいところですので、
最も注意を要します。

(i) 構成要件列挙型で。

「〜と、〜と、〜とを備える・・装置。」という、構成要件列挙型で記載するのが米
国では標準的であり、しかも望ましいものと考えます。米国では、「〜において、〜
を特徴とする・・装置。」という特徴記載型では、「〜において」の部分が、出願人
が自認した”prior art”とみなされ、思わぬ不利益を被る可能性があります。ま
た、「〜が〜であって、〜が〜する・・装置。」という書き流し型よりも、構成要件
列挙型では、構成要件がより明瞭となります。審査上、好都合であり、誤解に基づく
無用な拒絶を受けずに済むという意味でも、被疑侵害品との対比が容易であり、無用
な争いを防ぐという意味でも、出願人様にとって利益があるものと思われます。

(ii) 生真面目に「前記」を欠かさず。

英語圏では共通か、と思われますが、先に登場した要素名を反復する際に、先のもの
と同一のものであれば、定冠詞”the”が付きます。先出のものと同一である場合に
は、英語の”the”を意識して、「前記」をもれなく付しておくことが大切です。そ
れにより、同一要素でないのに”the”が付いたり、同一要素であるのに”the”が抜
けたり、という誤訳を防ぐことが可能となります。また、日本出願明細書としても、
要素間の関係がより明瞭となり、好ましいものとなります。

なお、翻訳時には、慣用語句であっても、新出のものにはtheを使わないことに注意
が必要です。例えば、慣用語句“on the basis of〜”は、“on a basis of〜 ”と
記載し、新出の要素であれば、“the first layer” は “a first layer”と記載す
るのが無難です。

(iii) 複数の要素には「複数の」を。

ある要素が単数でも複数でもよい場合には、単数で記載するのが原則です(日本でも
外国でも同じ)。単数で記載しておれば、同一要素を複数備える被疑侵害品も、通常
であれば特許請求の範囲に記載の発明に含まれることになるからです。一方、複数で
あることを要するものには、複数の要素として記載する必要があります。「複数の
〜」と記載しておくことで、英語で言えば”〜s”という複数形への翻訳が可能とな
ります。

複数の要素を登場させると、その後に同じ要素を引用する場合に、注意を要します。
同じ複数の要素全部であれば「前記複数の〜」、その各々(単数)であれば「前記複
数の〜の各々」、その一部である場合には「前記複数の〜の1つ」「前記複数の〜の
一部」、その一部または全体である場合には「前記複数の〜の少なくとも一部」等々
と、先出の要素との数の上での関係を明確に記載する必要があります。

日本語では、複数であっても「前記〜」で済むために、明確化を怠った一種のごまか
しが通用する場合がありますが、外国出願では通用しません。分析的な思考を要する
ところです。このような記載の習慣を付けておくと、日本出願明細書としても、要素
間の関係がより明瞭で好ましいものを作成することが可能となります。

(iv) 後で登場する要素名は先に紹介しておく。

米国特有の実務として、先に紹介されない要素名がいきなり登場することを許さな
い、という慣習があります。例えば、「トランジスタと、前記トランジスタのベース
に接続された抵抗器と、..」と記載すると、記載不備拒絶を受ける場合がありま
す。この場合、「ベースを有するトランジスタと、前記トランジスタの前記ベースに
接続された抵抗器と、..」と記載すればOKです。

同じように、いきなり「基板の上に第1の半導体層を堆積する工程と、..」と記載
すると、NGとなる場合があります。「基板を準備する工程と、前記基板の上に第1の
半導体層を堆積する工程と、..」と記載すればOKです。「〜を準備する工程」は、
英訳では”a step of providing〜”となります。

人間に頭があるのは技術常識であって、わざわざ「頭を有する人間と、」と書くこと
を求めるに等しい、と言いたくなりますが、実務ですので従うほかありません。

(v) 凹部、溝、孔などの空間は、間接的に表現する。

空間は、それを形作る物を通じて間接的に表現することが求められます。例えば、
「孔と、前記孔を囲む〜部材と、..とを備える・・装置。」という記載はNGです。
「孔を規定する〜部材と、..とを備える・・装置。」とすれば、OKとなります。た
だ、近年では、この種の慣習は、相当に緩やかになっているようです。

(vi) 「〜を備える」「〜から成る」「実質的に〜から成る」の使い分け。

日本出願明細書でも、〜以外のものが含まれることを許容するときには、「〜を備え
る」と記載し、そうでない場合には、「〜から成る」と記載する習慣があります。米
国では、comprising 〜(〜を備える)、consisting of 〜(〜から成る)、
consisting essentially of 〜(実質的に〜から成る)については、判例により解釈
が形成されており、米国特許審査便覧(MPEP)にも反映されています。日本語明細書
が、上記のように正しく翻訳されているかどうか、をチェックする必要があります。

(vii) 「又は」(or)の使い方に注意。

米国出願では、“or”を使うと、記載不備拒絶を受けることがあります。米国では
(旧)特許審査便覧(第5版)においても、equivalent(均等物)をつなぐ“or”はOK
とされており、「選択肢どうしが類似の性質又は機能を有しない場合」を、発明の不
明確性(36条6項2号違反)の一類型とする日本の特許実用新案審査基準と、実質
的な差異はないように思われます。近年の特許審査便覧(第6〜8版)では、このよ
うな制限への言及もなく、”wherein R is A, B, C, or D”のような択一的表現は許
される(特許審査便覧第7,8版2173.05(h)II.)、とされています。ただし、実務
上、米国ではこの種の記載不備拒絶は少なくないという印象です。例えば、“one or
more(1以上の)”という記載について、記載不備拒絶を受けることがあります。こ
の場合には、 “at least one(少なくとも1つの)”に補正するとOKです。実質よ
りも、“or”という字面で審査がなされている(?)という印象を受けます。

(viii) 機能的記載に注意。

米国出願では、構造、材料又は行為を記載することなく、特定の機能を実行するもの
として“means for -- ing(〜する手段)”、“a step for - - ing(〜する工
程)”とクレームに記載すると、米国特許法112条第6パラグラフにより、その手段
や工程は、明細書に記載された対応する構造、材料、行為又はそれらの均等物に限定
して解釈されます。日本では、そもそも機能的クレームの使用は無制限に認められて
はおらず、その機能・特性等を有する具体的な物を容易に想到できる場合などに制限
されており、それから外れる場合には、発明の明確性(36条6項2号)違反が問わ
れます(特許実用新案審査基準)。他方の米国では、機能的クレームについて区別を
設けずに、使用を無制限とする以上、解釈の方を一律に厳しくすることで調整を図ら
ざるを得なかったのでは、と推察しております。

機能的クレームが、第112条第6パラグラフの適用を受けて、狭く解釈されること
を回避するためには、なるべく構造に関する限定事項を盛り込むのが基本となりま
す。構造による限定と機能による限定とのバランスが、前者に傾くほど、第112条
第6パラグラフの適用可能性は低くなります。それができない場合には、形式だけで
も“means for -- ing”から遠くなるように、例えば、a device/ unit/ circuit 
configured to do --; a device/ unit/ circuit to do --; a device/ unit/ 
circuit doing -- ; a device/ unit/ circuit that does -- などを使用するのが、
立証負担を軽減する意味で、幾分なりとも望ましい便法と思われます(何れが良いの
か、確としたことは言えません)。

"device"などの一般名称を用いるよりも、"heater(加熱器)"、"comparator(比較
器)"のように、"-er","-or"で終わる装置名称があれば、これを使うのが、第112
条第6パラグラフの適用を回避する上で、より望ましいと言えます。米国出願につい
て書換えを行えば足りますが、優先権の援用を確実なものとするために、日本出願の
段階から、このような周知の装置名称を実施の形態などに例示しておくことが望まれ
ます。

方法の発明については、"a step for"よりも"a step of"が望ましいと言えます。
"a step of"については、「機能」ではなく「行為」を表現したものと推定される、
とするCAFC(米国連邦巡回高等裁判所)判決があるからです(Irah H. Donner・著/
友野英三・訳「合衆国特許・機能的クレームの実務」経済産業調査会(2008年)ご参照)
。すでに永年来、"a step for"よりは"a step of"の使用が一般的となっており、
"a step for"をお使いになる弁理士さんは少ないのではないか、と思われます。方法
クレームでは、第112条第6パラグラフの適用を受けることなく、広く解釈される
記載の仕方があるわけですから、装置クレームがあっても、方法クレームを積極的に
記載する値打ちがある、とも言えます。

記載の形式としては、"a step of --ing"を列挙するよりも、"comprising the steps 
of:"の後に、"--ing"を列挙する形式が多いように思います。さらに近年では、
"the steps of"すら用いずに、"--comprising: --ing; --ing; and --ing"のように、
移行詞"compising"の後に、動名詞"--ing"を直接に列挙する形式が目立つようになっ
てきました。これは、日本語では、「〜することと、〜することと、〜することと、
を備える〜。」という記載となります。このような記載が好まれる理由として、"step"
を用いた場合には、方法を構成する各行為が、"step"として他とは明瞭に区別され、
順を追って段階的に行われるもの、と限定解釈される場合があるから、と一米国代理
人から伺っております。

(6) 「解決手段」「発明の効果」欄の記載と形式的修正

 日本出願明細書では、請求項毎に、それに対応した解決手段、作用、及び効果を記
載するのが通例ですが、外国出願が予定されている日本出願であっても、特にこの形
式を変える必要はないものと考えます。

 但し、米国出願明細書へ翻訳する段階では、Summary(発明の概要の欄)には、詳
細な記載を避けるのが望ましいと言えます。例えば、目的・構成・作用効果につい
て、最上位の請求項に対応した内容の記載のみに止めるよう、形式的な書き換えを行
うのが望ましいものと考えます。米国出願では、Summaryの欄の記載によって、クレ
ーム発明が限定解釈される恐れがあるからです。

 なお、米国代理人・ロースクール教授・Hauptman氏による最新(2011年秋期)の6
箇月実務研修では、最上位の請求項に対応した構成のみを記載し、目的・作用効果も
記載しないのがよい、と述べられています。また、Summary欄であっても、「発明」
という用語を使用せず、実施の形態として記載するのがよい、と教示されています。

 各請求項に対応した手段、作用、効果の記載内容は、例えば、「実施の形態」の欄
の末尾に、「実施の形態の概要」として記載しておくと、日本出願から開示範囲が狭
くなる恐れがなく、安心できます。但し、このような書き換えは、明細書の構成を本
来の姿とは異なる不格好なものにしますので、出願人様のご希望次第での対応となり
ます。

(7) 図面の記載

 図面については、以下の点に注意が必要です。

(i) 米国出願では、特許請求の範囲に記載した要素が、図面にすべて現れていること
を要します(米国特許法施行規則§1.83(a))。将来の減縮補正で特許請求の範囲に盛
り込む可能性のある要素も含めて、図面に現れるように準備することが望まれます。
その結果、図面が詳細なものとなります。外国出願が予定されているご発明では、日
本出願の段階から、同様の図面を準備しておくのが望ましいと言えます。

 新規事項の追加に該当することなく、明細書の記載に基づいて、必要な図面を必要
なときに、補正によって追加できる場合も少なくないだろうとは思います。しかし、
ある要素を図面に表現しようとすると、その具体的な形状についての情報が付加され
るなど、明細書に記載がなく、自明とも言えない事項を追加せざるを得ない場合もあ
り得るのでは、と思われます。文章は現実のものを抽象化することによって成り立つ
ものです。図面も同様に現実のものを抽象化したものに相違ありませんが、文章はさ
らに抽象化の度合いが深い場合が多いのではないでしょうか。将来の減縮補正で特許
請求の範囲に盛り込む可能性のある要素も含めて、図面に現れるように準備しておく
ことが、新規事項のリスクを回避する上で望ましい、と考える理由です。

(ii) 図面の様式は、最も厳しい米国の様式に合わせておくと、他の国でも通用しま
す。

 (1) ハッチングについては、材料が発明の重要な特徴である場合には、米国特許庁
「特許図面作成ガイド」(末尾の《参考資料》ご参照)に沿ったハッチングにするこ
とが求められます。

 (2) つながっていない図面は別図面として扱われます。ただし、翻訳段階で図1
(a),(b)は、Fig. 1A、Fig.1Bとすることも可能です。曲線がいくつも並んだタ
イミングチャートや波形図では、全体を括弧”{ ”で一括りにして、”Fig. 1{ ”
として、1つの図面とすることも可能です。

 (3) 理解の助けになる場合には、陰影を入れることが求められます(米国特許審査
便覧)。

 (4) 上記(1) (3)については、外国出願が予定されているご発明では、日本出願の段
階から、同様の図面を準備しておくのが望ましいと言えます。上記(2)については、
外国出願について、形式的な書き換えを行えば足ります。

(iii) 米国出願では、先行技術の図面には”PRIOR ART”を付する必要があります。
ただし、先行技術でないものに付しないよう注意が必要です。出願人が自認した先行
技術とみなされるからです。米国出願のみ形式的修正を行うことで対応可能です。

(8) ソフトウェア発明のクレームの形式的修正

 ソフトウェア発明では、保護を受け得る形態が国毎に異なっています。特許主要国
での保護を受け得るソフトウェア発明の形態をまとめると、次の表の通りとなりま
す。

特許主要国でのソフトウェア発明のクレーム形式
日本 米国 欧州(EPO) 中国
プログラム自体 × ×
記録媒体 ×
伝送媒体 × × ×
伝搬信号 × × ×
搬送波 × × ×
装置
方法


 例えば、米国ではプログラム自体のクレームを記載することは認められません。記
録媒体のクレームを記載することは可能です。従来は、記録媒体だけでなく伝送媒体
をも含めて媒体クレームを記載することができる、と理解されていました。伝搬信号
も伝送媒体の下位概念の1つと捉えられ、搬送波は伝搬信号の下位概念として捉えら
れていました。しかし、最近のCAFC判決(In Re Petrus A.C.M.Nuijten , Fed. Cir. 
No. 2006-1371, 2007年9月20日)により、信号は法定の発明類型(米国特許法101条
に規定の方法、機械、製造物、組成物の4類型)の何れにも該当しない、との判断が
示されています。伝搬信号、搬送波については、今後はクレームする値打ちがなくな
るものと思われます(これまでも記載例は希少でしたが…)。上位概念としての伝送
媒体クレームも、同判決により否定されている、というのが米国代理人の見解です。

 これに対して、欧州(EPO)では、日本と同様、プログラム自体の請求項も記載する
ことが許されます。これは、欧州特許庁審決T1173/97及びT935/97で、「コンピュー
タプログラムそれ自体も、そのプログラムとコンピュータとの間で、”通常の”物理
的な相互作用を超える技術的効果をもたらすものであれば、特許性を排除されない」
旨の判断が示されたことによるものです。ソフトウェア発明の保護を受け得る形態に
ついては、EPC2000の施行(2007年12月13日)の後も変わりありません。

 保護を受け得る形態が国毎に異なることから、特許請求の範囲について、国毎に形
式的な作り替えを行う必要があります。明細書には、その最大論理和として、すべて
の形態について言及しておくことが大切です。図面については、米国出願を考慮し
て、記録媒体等を記載しておく必要があります。

(9) 多数項従属クレームの形式的修正

 多数項従属クレームの記載の可否については、(1) 重複しない範囲で認められる
(シングル×マルチのみOK)という国、(2) 多数項従属クレームにさらに多数項従属
クレームが従属することをも認める(マルチ×マルチもOK)という国、(3) そのどち
らも不可という国、の3通りに分かれます。特許主要国についてまとめると、次の表
の通りとなります。

特許主要国での多数項従属クレームの可否
日本 米国 欧州(EPO) 中国
マルチ×マルチ × ×
シングル×マルチ ×


多数項従属クレームの扱いが国毎に異なることから、クレームの従属形式を、国毎に
修正する必要があります。

 米国出願では、シングル×マルチは容認されています(米国特許法施行規則§1.75 )
が、費用の面で出願人様には何ら利益が無く(同規則§1.75 )、事実上、不許可と同
等扱いとなっています。したがって、日本出願の多数項従属クレームは、単一クレー
ム従属形式に改めることになります。当然ながら、全ての従属関係を、単一クレーム
従属クレームの束に展開するのが理想と言えます。しかし、そのようにするとクレー
ム数が膨大なものとなってしまうのが通常か、と思われます。

 クレーム数20項までは出願料金が定額であることを考慮して、クレーム数が20
項を超えるようであれば、次の要領で行うのが一案かと考えます。この要領で展開し
たときに、クレーム数が20項に満たない場合に、20項に達するまでは、他の従属
関係も展開して追加する、というのが経済的か、と思われます。

(i) 互いに従属関係(親子関係)にある多数項に従属する場合には、そのうちの最も
広い請求項に従属させる。

(ii) 但し、組合せに特有の効果があるものについては、追加しておくのが良いと考
えます。

(iii) 互いに横並び(兄弟関係)にある多数項に従属する場合には、それぞれに従属
する請求項を並べる。

 欧州(EPO)では、出願時の特許請求の範囲からの拡張補正が容易でないという事情
があります。このため、日本出願と同様に、マルチ×マルチを使って全ての組合せを
記載しておくのが望ましいものと考えます。

 中国では、出願時には日本出願と同様に、マルチ×マルチを使って全ての組合せを
記載しておき、オフィスアクションへの応答時にマルチの関係を分解する補正を行う
のが望ましい、と一中国代理人から伺っております。その方が、出願料金を安くする
こともできます。

 請求項の個数は、出願料金にも影響します。出願料金の定額範囲{(米国)独立3
項・全20項まで;(欧州)全15項まで;(中国)全10項まで}をも考慮して、
出願人様のご希望に沿うように、取捨選択することも考慮すべき事項であろうと考え
ます。

 米国では、2007年11月1日以降は、特許法改正規則が施行され、それにともなって
請求項の数が制限される予定でした(独立5項、全25項)。また、同改正規則の施
行にともない、法定の発明類型(米国特許法第101条に規定の方法、機械、製造
物、組成物の4類型)を超えて、異なる類型に属する発明を引用するクレームは、独
立クレームとして扱われる予定でした。しかし、この改正規則の施行は、延期されて
います(「〜米国特許法規則改正の施行(2007年11月1日予定)が延期に〜」をご参
照)。

 なお、欧州(EPO)出願について、請求項の“two-part-form(二部形式)”への書き
換えは、出願時には不要であると考えます。“two-part-form”になっていなくて
も、調査も審査も行われます。審査の過程で、“two-part-form”に補正すれば足り
るものと考えます。

 また、欧州(EPO)出願について、請求項の各構成要素に付すべき図中の符号は、出
願内容がすべて頭の中に整理されている出願時に記載しておくのが、能率的ではない
か、と思われます。後日のオフィスアクションへの対応にも便宜です。

《参考:米国特許庁編「特許図面作成ガイド」2002年6月版》
From “Guide for Preparation of Patent Drawings June 2002” When the 
material is an important feature of the invention, the symbols shown on 
Pages A-3-3 through A-3-5 should be used. 

米国特許庁編「特許図面作成ガイド」2002年6月版


米国特許庁編「特許図面作成ガイド」2002年6月版


米国特許庁編「特許図面作成ガイド」2002年6月版




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