Fukumoto International Patent Office


とりとめもない「単位」のはなし



             福本 2001年9月作成 2009年12月更新

 日本には、かつて尺貫法という単位系が存在しました。周知のように、明治以後、
1尺は10/33メートル(=30.3030303・・・センチメートル)と定められており、6尺
(約182cm)が畳の縦の長さ1間(けん)で、1間×1間、つまり2畳分の面積が1
坪と呼ばれます。10尺(約3.03m)は1丈(じょう)と呼ばれます。「万丈(ばん
じょう)の山」とは、言葉どおりには3万メートルの高さの山であり、日本にも中国
にも実在しない誇張表現であることは周知の通りです。

 1尺の10分の1(約3.03cm)は1寸であり、尺八という古楽器の名称は、標準も
のの長さが一尺八寸であることに由来します。60間(約109m)は1町と呼ばれ、3
6町(約3.93km)は1里と呼ばれます。明治・大正期の小説には、町という単位がし
ばしば出てきますが、約100mであると頭に入れておけば足りるものと思われます。

 容積では、1升が約1.804リットルであり、その10分の1が1合、10升が1
斗、10斗が1石で、米俵(こめだわら)一俵は4斗であることも常識の範囲です。
1日に1合飯(≒茶碗2杯分)を三度食らうと、1年で約1095合=1.096石
となります。1石という単位は、大人一人が1年間に食べる米の量から定められてい
るのでしょうか? 周知のように徳川時代以前には、知行高を石高で表していまし
た。当時の1石がもしも現在の1石と同じ米の量だとすれば、「加賀百万石」といえ
ば、米だけで大人100万人を養えるだけの領地ということになります。

 日本では、とうの昔に尺貫法に別れを告げて、日常生活の中にもメートル法が定着
しているのに、グローバリゼーションの旗頭ともいわれる米国が、インチやフィート
という、いわば米国尺貫法を未だに使用しているのは、少々意外な気が致します。米
国のグローバリゼーションは米国標準の世界化のこと、などという声も聴かれます
が、何となく分かるような気も致します。

 同じ量でも、小さな単位を用いれば、数値は大きくなります(小学生でもわか
る)。「タウリン1000ミリグラム配合!リポビタンD!(商品名)」というキャッチ
コピーが知られています。「タウリン1グラム配合!」と言えば、インパクトが弱い
と考えたのでしょうか?「リポビタンD」の小瓶100ccの中に、目で見えるほどの1
グラム(≒1cc)もの滋養成分が含まれているというのは、相当なものだと思いま
す。これに対して、「1000ミリグラム」では、数値が大きい割に、大きさが目に見え
てこないように思います。むしろ、「1グラム」の方が、宣伝効果が上がるのではな
いか、という気も致します。

 さらに小さい方では、百万分の一の比率を表すppmという単位が知られていま
す。とるに足りないほど、無いのと同じくらいではないか、と一見思いたくなりま
す。しかし、縦・横・高さ、それぞれが百分の一の容積は、全体の百万分の一になり
ます。例えば1立方メートルの水に「ブルーレット(商品名)」の小片1ccを切り
落とすと、おおよそ1ppm程度の濃度になります。うっすらと色の付いた「限りな
く透明に近い」ブルーレット混じりの水を、目にすることができるかもしれません。

 単位には人の名前を用いたものが、少なくありません。その人の偉業を、単位名に
して永く讃えようという、科学の分野でのよき風習と云えます。しかしながら、ニュ
ートン、ボルト、アンペア、ワット、パスカル、ベクレルなど、SI単位系に属する
単位に用いられた人名は、今後も永く生き続けることになるでしょうが、オングスト
ローム、キュリーなど非SI単位系に属する単位に用いられた人名の一部は、不幸に
も今後は単位の世界からは消え去ってゆくことだろうと思います。キュリー夫人のよ
うに、放射線科学の第一人者の名前が、その分野から消えてゆくのは、割り切れない
気も致します。

 地震の揺れの強度を測る単位としての「震度」は、日本の独創によるもので、英語
圏では"Japan scale"と称されます。これに対し、地震の規模(総エネルギー)を測
る単位として、日本でおなじみの「マグニチュード」は、英語圏では人名を用い
て"Richter scale"と称されます。新しい分野を切り開いて、その分野に新たな定量
的概念を導入すれば、その人の名前が採用される可能性は高いと云えます。

 みなさまも、なにか新しいことをお始めになると、ご自身のお名前が単位名として
後世まで伝えられるかもしれません。


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