Fukumoto International Patent Office


あらまほしきは数寄屋風の特許事務所?



                 福本 2005年作成 2007年3月更新

 大阪の公共事業の一つとして「大阪再開発・・何とか・・」というプロジェクトがある
そうです。大阪市役所が置かれる中之島周辺でも、古い中低層の建物がお取り潰しと
なり、代わりに真新しい高層建築があちらこちらにタケノコのように地から生え出て
きています。

 80年代後半から90年代は、箱形で機能本位の伝統的な近代建築様式に、近代以
前のレトロ的な装飾性を加味したポストモダン様式がもてはやされていました。コテ
コテと装飾過剰とも思える作風で知られるスペイン国のアントニオ・ガウディが、建
築の神様のように言われた時代でもありました。2000年を跨いだ後の現在は、機
能性が高く、居住性がよく、すっきりと見た目にきれいな建築様式の時代、早く言え
ば、近代建築への揺り戻しの時代へ入っているような気が致します。

 近年の建築は、鉄筋コンクリートを用いることなく、柔軟な鉄骨ラーメン構造を採
用しており、組み上げられた鉄骨に外壁や床、天井、内壁等を取り付けることによっ
て完成する仕組みとなっています。重量はすべて鉄骨で支えられており、壁面は「カ
ーテンウォール」と称され、荷重を分担しない構造となっています。外壁には、カー
テンウォール特有のつなぎ目が、マス目のように見えるのが通例です。

 鉄骨も、壁面も、工場であらかじめ設計・製造されたものを現場へ持ち込んで組み
立てるという、プレファブ方式が採られます。重量ある鉄骨等を持ち上げるために、
建設工程の早期にクレーンが仮設されます。近年の建設現場は、作業者も小人数で、
生産効率の高い組み立て工場のように見えます。

 出来上がった建築物は、格別の装飾はなくとも、外装、内装ともに美的に仕上げら
れているように思います。ただ、どんなに上背のある建築物であっても、鉄筋コンク
リートを用いない構造が目に見えるかのように、重量感の薄い印象、軽々と建ってい
るかのような印象を与えます。悪く言えば、見た目よりも「安くできている」ビル、
という印象です。中之島の「日銀ビル」は、その点、低層にも拘わらず、重厚感が印
象的です。

 オフィスビル等の業務用建築物とは異なり、個人住宅では、専ら和風建築が好まれ
ています。和風建築の一伝統に、禅宗の寺院や茶室の様式に端を発すると言われる
「数寄屋造り」というのがあります。本格的な和風建築でなく、著作権侵害裁判では
著作物性が否定されるようなプレファブの一般建売住宅であっても、数寄屋造りの伝
統は自然に取り込まれており、我々日本人は水か空気のように、知らぬ間にこの伝統
の恩恵に浴していると言えます。

 伝統ある数寄屋造りを近代建築に取り入れようとする建築家も知られています。昭
和期の吉田五十八(いそや)、現代の石井和紘がよく知られるところです。異なる建
築様式の融合を図ろうという、「新しい結合」の試みの一つであるとも言えます。吉
田五十八の建築は、日本の伝統の中で生きている我々には、素人目ながらも魅力的に
映ります。

 石井和紘の初期の作品に、直島町(瀬戸内海に浮かぶ多数の島からなる香川県内の
町)の町役場が知られています。桃山時代に秀吉が京都に建てた「飛雲閣」を模して
造られたもので、「直島飛雲閣」の名で呼ばれています。和風ということもあって、
「役所」という堅いイメージからは遠く、庶民に親しまれる造りとなっています。写
真で見ると、内装も、高級和風旅館のカウンターのあるロビーを広くしたかのよう
で、採光にも古来の和風建築を思わせる工夫がなされているように見えます。

 特許事務所が、人に優しい和風造り、数寄屋造りを容れ物にしたらどうなるでしょ
うか....。自身の社屋を所有し得るほどに恵まれることがあったとしたら、いっその
こと、どこにでもあるような近代建築から離れて、数寄屋造りにしてみてはどうでし
ょう....。玄関には暖簾が掛かっていて、顧客様は暖簾をめくって「ごめん下さい」
を声をかけます。「縄のれん」にすると、お酒と日頃ご懇意の顧客様にはもっと親し
みを持って戴けるかもしれません。

  客間は、畳敷きで堀こたつが切ってあって、その上に食卓のような打合せテーブ
ルが置いてあります。まるで、どこかの居酒屋の一室のようです。落ち着いてくつろ
いだ雰囲気の中で、脚を伸ばした楽な姿勢で、打合せに臨むことができます。工芸の
ように作品造りを業とする弁理士は、往年の蘭方医や現代の陶工のように作務衣(さ
むえ)を着用すると、容れ物にマッチすることでしょう....。

 目に映る形はともかくとして、本当の中身で、敷居が低く気軽に訪ねたくなるよう
な事務所、親しみを感じて戴ける事務所、応対が丁寧で顧客様が何度も脚を向けたく
なるような事務所を目指したいなぁ、と日頃思っております。これを建物に喩えると
「数寄屋風の事務所」ということになるのかもしれません。


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