Fukumoto International Patent Office


白昼夢をご一緒に (誰でもできる発明・発想法−2−)



                       福本 2006年11月作成

1.組み合わせてみよう

 関西のある有名企業の元副社長による最近の講演の中で、日本の現状をうち破るに
は「新しい結合」を「断固としてやり遂げる」ことである、というお話がありまし
た。「新しい結合」とは、既存の異種のものどうしを組合せることによって、新しい
ものを造り出そうというもので、ドイツのシュンペータという社会学者が唱えたもの
だそうです。同じドイツ生まれの弁証法を生かした提唱内容かとも思われます。様々
な発明は、実際上、何らかの意味で従来あるものどうしの組合せとして把握すること
が可能であって、日常の特許業務を通じた私どもの経験とも合致する考え方ではない
か、と思われます。

 そうであれば、発明などの創造の手法として、「まず結合してみる」という試みも
可能か、と思われます。とりあえず、従来あるものを手当たり次第に組み合わせてみ
て、その後で、その中身を考えるという手法です。子供が生まれる前に名前を付ける
のに似て(?)います。特定の問題を解決するという目的意識を持った発明活動には
向かない手法です。

 2.しょ〜もない(?)事例

 例えば、機械工学の分野で既に確立された技術である「ボイラー」と、電子工学の
分野で今なお研究途上にある「太陽電池」。どちらもエネルギーに関連しており、発
想の飛躍にやや乏しい例とは言えます。この組合せから何を想像できるでしょう
か..?太陽電池は、太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する。ボイラー
は、熱で蒸気を沸かす。だから、太陽電池で起こした電力を、ヒータに通して熱を発
生させて蒸気を沸かす..、このくらいはすぐに思い着きます。しかし、余り面白み
がありません。特許風に言えば、進歩性がないということになります。もう一ひねり
考えてみたら..?太陽光のエネルギーを使って蒸気を沸かして発電を行えば、太陽
電池の代わりのものができないか..。太陽光を熱源とする蒸気発電装置が思い浮か
んできます。

 そのままでは発電効率が低そう..。太陽電池をしのぐほどに効率を上げることは
できないだろうか..。太陽の方角に追随する巨大なパラボラを使って太陽光を集光
して、高温部を作り出し、この高温部で蒸気を発生させて、タービンを回して発電を
行うようにすると、太陽電池を超える高効率の発電が実現するのでは..?クリーン
で、燃料資源が無用で、良いことずくめでは..。石油を用いる新鋭火力発電の効率
は、60%ほどにも達すると言われています。太陽光を一旦熱に変換することで、直
接に電力に変換する太陽電池よりも却って発電効率を高めることができるのではない
でしょうか..。

 太陽光蒸気発電機は、今更取り上げるまでもなく、何十年前、あるいは発電機が発
明された100年以上も前に、当然に考えられていたり、利用されていたりしている
ことだろうと思われます(特許風に言えば、新規性がない)。余りハイカラではない
老朽化したようなこのような技術も、発電所という規模で考えれば、新たな生命を得
ることができるのではないか、と思われます。高温度を作り出す代わりに、沸点の低
い液体を媒体にすることで、家庭用にも適する小型の装置ができるのでは..。

 ともあれ、任意の2つを組み合わせることで、あるいはそれを契機として、この辺
までは簡単にたどり着くことができる、という例を提示することはできたようです。
このように、「名前が先」手法を使うことで、特許にむすびつく発明も生まれ得るの
ではないか、と考えます。

 3.科学技術に新しい分野を

 発明だけでなく、科学や技術の新しい分野の開拓にも、「名前が先」手法を適用す
ると面白いのではないか、と考えます。「溶接工学」という工学の一分野が知られて
いますが、溶接それ自体は、経験技術として古くから存在していて、これに科学の光
を当てることによって「工学」が誕生した、と言われています。「冶金工学」も同様
であろうと思われます。青銅器文明の起源は何千年も前に遡りますし、製鉄技術も古
来より存在します。これらは「名前が先」ではなく、新しい工学が実体として誕生し
た後に命名があったものと思われます。しかし、先に名前をつけることで、これらの
分野に脚を踏み入れることも或いはできたのでは、と想像致します。

 工学には縁遠いと思われる「素粒子論」を「工学」に敢えて結びつけるとどうでし
ょう..。生成や変換には高エネルギーの加速器を要する素粒子が、人間の実生活に
直接に役立つとは考えられない現状ですが、敢えて知恵を絞ってみては..?核子ど
うしを結びつけるパイ中間子のビームを作って、これを水素原子核に照射すること
で、中間子を触媒とした核融合反応を促進させることはできないでしょうか..。話
題の常温核融合反応が本当に実現するかもしれません。可能性があるのであれば、素
粒子工学の幕開けとなります。このような着想も、着想それ自体は、既に以前からあ
りそうな気が致します。本来的に実現の可能性があって、それには解決すべき技術的
課題が残されているというのであれば、工学は成立し得ることになります。素粒子工
学は、「触媒核融合工学」からスタート?

 地球上の様々な自然現象を「工学」に結びつけて、「気象工学」、「大気工学」、
「山岳工学」、「河川工学」、「海洋工学」、「深海底工学」、「地底工学」、「地
震工学」..等々。この辺になると「土木工学」や「環境工学」ともイメージが重複
しそうですし、既に存在しているものもありそうで、斬新さに欠けるようです。

 日常生活に密着しそうな「調理工学」、「家事工学」、「子育て工学」、「美容工
学」..。女性の目を一見引きそうですが、デリケートなものを無骨に扱う危なっか
しい学問、というイメージも拭いきれないような気がいたします。

 「制御工学」と名の付くものも、名前だけは制御対象の数だけでっち上げることが
できます。「環境制御工学」、「経済制御工学」、「社会制御工学」、「都市制御工
学」、「数理制御工学」、「宇宙制御工学」..。宇宙をどうやって制御するの
か..。常識では考えられない分、夢が拡がりそうです。

 「人間行動制御工学」、「心理制御工学」..、こうなると、少々危険な途につな
がる予感が致します。「人気制御工学」などというものができれば、政治家や芸能人
が飛びついてくるかもしれません..。

 4.芸術芸能に新しい分野を 

 芸術や芸能の分野では如何でしょうか..。私ども「中高年」の間では、三波春夫
という昭和の代表的歌手が記憶に残っております。元々は浪曲師だったのだそうで、
浪曲を歌謡曲に取り入れるという「新しい結合」で時代を築いた人物と言えます。著
作権法の判決例にも登場する大阪の名浪曲師、酒井雲の弟子であった村田英雄がこれ
に続くことになります。日本の農村の情趣を歌い上げた三橋三智也も、昭和人には忘
れられない名歌手です。こちらは民謡歌手出身で、日本民謡を歌謡曲に取り入れると
いう「新しい結合」の創造者でした。クラシック音楽の分野では、武満徹が世界的に
認知されているようです。世界の様々な国の和声を取り入れることで、日本人にも西
洋人にも斬新な独特の音を造り出した、とされており、「新しい結合」の達成者の一
人に数えられそうです。

 現代の音楽家も先輩諸子に倣って、「新しい結合」を試みては如何でしょう
か..。「名前が先」手法に従って、例えば「ロック音楽」と「義太夫節」とを組み
合わせた「義太夫ロック」..。「浅草ロック」の親戚のようで、まず名前があか抜
けない?ロック音楽を、台本を持って義太夫風に歌う...ますます面白くなさそ
う?一語一語を間延びしたように引張る義太夫の語り口と、それとは対照的にハイテ
ンポでハリのある歌い口のロックとを混ぜ合わせると、どんな音楽が誕生するのでし
ょうか..。

 様々なものを勝手に組み合わせて名前を作ってみてはどうでしょう..。特許を受
けるような発明、著作権で保護されるような著作物も生まれてくるのではないでしょ
うか..。何よりも、頭の中にいろいろなイメージが拡がって、白昼に楽しい夢をみ
ることができます。


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