Fukumoto International Patent Office


明細書の書き方アドバイス(その3) 〜個人発明家さんの発明〜



            福本 2008年3月24日作成 2012年6月更新

(1) 素人さんの明細書...

 個人発明家さんに多いと思われますが、発明者さんご自身で特許明細書を作成して
出願なさる場合があります。そのような明細書をチェックして欲しい、と相談を受け
る機会がしばしばあります。明細書作成に不慣れな個人発明家さんの自作明細書に
は、共通した傾向が見られます。

 その1:「特許請求の範囲」の記載がやたらと詳しい。
 その2:「特許請求の範囲」に、発明の利点(効果)が書かれている。
 その3:逆に「実施の形態」の記載が簡素に過ぎる。
 いずれも、発明家さんご自身にとって、不利となります。

(2) 「特許請求の範囲」は簡素に...

 「特許請求の範囲」は、「私が特許を受けたい発明の内容はこれこれです」、とい
うことを明らかにする記載欄です。「特許請求の範囲」に記載した内容を全て備えた
ものが、特許を受けようとする発明の内容となり、特許庁での審査の対象となりま
す。また、晴れて特許を受けることができた後には、他人のものまねを排除して、自
身だけが実施できる発明の内容を明らかにする大事な記載欄です。いわば、権利書に
相当する文書です。

 「特許請求の範囲」が、例えば、「Aと、Bと、Cとを備える○○器具。」と書か
れておれば、「AもBもCも全部備えた○○器具」のみが、発明の内容となります。
「AとBとを備えるが、Cを備えない○○器具」は、発明には含まれません。逆に、
「Aと、Bと、CだけでなくDをも備えた○○器具」は、発明に含まれます。このよ
うに、「特許請求の範囲」は、少なく書くほど発明の範囲が広くなり、多く書くほど
狭くなります。

 「特許請求の範囲」には、発明の目的を達成する上で、必要最小限の事項のみを記
載することが大切です。それによって、発明の範囲に膨らみを持たせることができま
す。発明の範囲を膨らませるためには、「バネ」「ゴム」よりも「弾性部材」のよう
に、発明の目的を達成する限りで、広い概念を使って記載することも大切です。

 また、発明の範囲が広いほど、出願の前から知られていた先行技術までも含んでし
まったり(新規性なし)、先行技術から簡単に思いつくものとなったり(進歩性な
し)することによって、特許庁の審査をパスできずに特許を受けられなくなる可能性
は高くなります。このため「請求項」を複数個並べて、最も膨らんだ発明から、追加
事項を加えたり、狭い用語を使ったりして膨らみを小さくした発明まで、複数の発明
を段階的に記載するのが、より望ましいと言えます。特に、将来実施したい具体例に
該当するものは、入れておくのが良いでしょう。

(3) 「特許請求の範囲」は構成を書くのが基本...

 素人さんの「特許請求の範囲」には、「〜が〜したときに〜するという従来にない
優れた利点がある。」のように、ご発明の利点を宣伝されているケースをしばしば目
にします。
「特許請求の範囲」は、特許を受けようとする発明の内容を記載する欄です。発明の
利点、素晴らしさを訴える欄ではありません。したがって通常は、発明の構成を記載
することになります。発明の目的を達成するためには、どのような部材・部品・要素
が無くてはならないものなのか、それらが互いにどのような関係を持っていなければ
ならないのか、という目で、ご発明を捉えられると良いと思います。

 動作・機能を記載することによっても、発明が何であるかが分かるような場合に
は、動作・機能を記載することもできます。例えば、ネジ、釘などに換えて、「〜と
〜とを締結する部材と、・・・」といった記載が可能です。

(4) 「実施の形態」は詳細に...

 「特許請求の範囲」が、発明に膨らみを持たせて抽象的に記載されるのに対して、
「実施の形態」欄は、発明の最も好ましい具体例を記載する欄です。特許明細書を読
んだ第三者が、ご発明品を作れるように、かつ使えるようにするための記載欄です。
そのため、通常はいくつもの図面を参照しながら説明を記載することになります。

 出願後の特許庁での審査の結果、「特許請求の範囲」に膨らみを持って記載された
発明が、出願の前から知られていた先行技術に対して新規性あるいは進歩性がないた
めに特許できない、と判断されることが少なくありません。「特許請求の範囲」には
記載されないけれども「実施の形態」に記載された具体例であれば、新規性も進歩性
も大丈夫、という場合には、「特許請求の範囲」に具体例を盛り込んで、膨らみを小
さくする補正をすることが可能となります。それにより、膨らみは小さいながら、ご
発明について特許を受けることができるようになります。

 また審査の結果、「特許請求の範囲」の記載が抽象的に過ぎて、意味不明と判断さ
れる場合もあります。このときに、「実施の形態」欄に明確な記載があれば、これを
お手本として、発明が明確となるよう「特許請求の範囲」の記載を補正することもで
きます。

 「実施の形態」欄は、このように「特許請求の範囲」の発明を支えたり、救ったり
する役割を果たします。しっかり支え、いろんな場面で救うためには、「実施の形
態」は詳細に記載しておく方が、一般に有利と言えます。「実施の形態」が、「特許
請求の範囲」の繰り返しと殆ど変わらないような簡素で抽象的な記載であったら、支
えにも、救いにもならないことは、明らかだろうと思います。

(5) 「実施の形態」には様々なバリエーションも...

 ご発明には、いろんなバリエーションを想定できる場合が多いものと思われます。
コップに柄を付けたものが、仮に従来にない発明であったとすると、柄の個数や形状
や取り付け方に様々なバリエーションを想定することができます。「特許請求の範
囲」の発明を支えたり救ったりする、という役割を考えると、様々なバリエーション
を考えて、「実施の形態」にそれらを幅広く記載しておくことも大切であると言えま
す。ご発明を利用した改良発明について、他人に特許を取られないようにする、とい
う点でも意義があります。

 バリエーションを考えるには、最初に思い付かれた一つの具体例について、その部
品の一つ一つについて、(i) 削除ができないか、(ii) 他のものに置き換えることが
できないか、を考えると良いと思います。そうして、「特許請求の範囲」には、「実
施の形態」に記載する様々なバリエーションをも含むように、広く膨らみを持たせて
記載する必要があります。

 著名な個人発明家・笹沼喜美賀女史(故人)の「電気洗濯機の水中に浮く糸屑自動
除去具」(商品名:クリーニングボール)の明細書(実公昭47-39322)には、浮きと
しての気球に空気入れ口を設けて、使用しないときには空気を抜いて収納等を便利に
するという、最も望ましい形態が記載されると同時に、「本来は所謂ゴムマリ、カラ
ーボールのようなものを取付けても効果においては同じである。発泡スチロール(単
気泡)等の球も・・・」と、バリエーションについても記載がなされています。そし
て、「実用新案登録請求の範囲」には、「気球或いは浮上力をもつ球」と、いずれを
も含むように膨らみを持たせて記載されています。素人さんの自作とは思えない明細
書です。

(6) 明細書の記載は慎重に...

 個人発明家さんの発明は、衣食住に関連する日用品、文具、ケータイなど、身の回
りの物についてのものが多いように思われます。身の回りの発明で「高度な技術」な
ど不要な簡単な発明だから明細書は簡単に書ける...というものではありません。
技術内容の説明にさほどの労苦は要しないとしても、明細書を作成するときの考え方
は、複雑な電気、機械の発明に取り組むときと変わりはありません。構造が簡素であ
る分、明細書の分量は小さくなる傾向にあり、その分、完成に要する時間が短いもの
となる(従って、弁理士さんに依頼する場合の料金も安くなりがち)、ということは
ありますが...

 ご発明をご商売に結びつけようというご意思は、さほどでもなく、ご自分の名前が
公報に載って知られるようになればそれでよい、という軽いお気持ちであれば、少し
勉強をなされて、ご自分で明細書を書いてみられるのも宜しいのでは、と考えます。
頭の体操にもなりますし、ご自身のご発明を把握し直したり、改良したりする契機に
もなります。しかし、もしも真面目にご商売に結びつけようというお考えでありまし
たら、弁理士さんにご依頼なさることをお奨めいたします。事業化を真面目にお考え
なのであれば、特許取得も、材料購入費、宣伝広告費などと同様に、事業に必要な経
費の一つ、と捉えることが大事では、と考えます。

(7) 自分が買って使いたくなる発明品を...

 特許出願の前提として、発明がなされなければなりません。様々な発明品に触れる
たびに、発明の種はどこにでもある、ということを教えられます。身の回りの品々の
中に、改良を待っている「不便さ」が数多くありながら、大抵は見過ごしていて、そ
れはそういうものなのだ、と無意識に折り合いを付けていることが多いのでは、と思
われます。発明は、何気なく経験している不便を意識化することによっても、生み出
すことができます。誰も意識しなかった不便を意識して、何とかならないだろうか、
と考えれば、発明は半分できたようなものではないか、と考えます。研究すべき課題
を発見できれば、研究の半分は完成したのも同然とは、研究の現場ではよく言われて
いることです。

 次に、発見した不便をどう解決するかを考えます。これまでに身につけている知識
や経験が、知らず知らずのうちに役に立つ場面ではないか、と思われます。問題の不
便は解決しても、取扱いに複雑な器具を要したり、高価なものになったり、置き場所
に困るほどかさばったり、不衛生であったり、というものは、発明とは言えても、売
れない発明にしかなりません。売れる発明であって初めて、ご商売を真剣に考えるこ
とも可能になりますし、費用を掛けて特許を取る値打ちも出て参ります。

 何が売れて、何が売れないか...マーケット調査をやろうとすればお金が掛かり
ます。しかし、最も簡単で費用のかからない、しかもおそらくは、ほどほどに確度が
高いと思われるマーケット調査の方法があります。それは、ご自身が買って使いたい
と思うかどうかを、お客さんの目線で判断することではないか、と考えます。店舗の
棚に、ご自身の発明品が、コストに見合う価格で展示されているときに、その価格で
ご自身が買いたくなる、使いたくなる...そのようなものになっているか。自問自
答の結果、それに至っていなければ、さらに改良を考えることが大切では、と考えま
す。

(8) 出願までは発明を秘密に...

 ご発明について特許出願をすることをお考えなのであれば、出願まではご発明の内
容を秘密にしておかなければなりません。発明家さんには善良な方が多く、ご自分の
ご発明をご友人や知人に進んで教えてあげたり、発明品をプレゼントしたりなさった
後に、特許出願の相談にお見えになる、というケースが少なくありません。

 秘密(守秘義務)の約束をした範囲の人に教えただけであれば、世の中に知られた
ことにはなりませんが、商品として販売したり、守秘義務のない人に教えたりすると、
世の中に知られたこととなり、特許を受けることができなくなります。また、約束を
した人が約束を守って下さるとは限りません(この場合は、下記の、ご本人の意に反
して世の中に知られたこととなる場合に該当するだろう、とは思われます)。

 2012年4月1日以降に特許庁へ提出する出願については、インターネットや刊
行物にご本人が発表なさった場合や、ご本人の意思に反して他人が勝手に公表した場
合だけでなく、ご本人が発明品を販売なさった場合をも含めて、世の中に知らせたこ
ととなる幅広い行為があっても、最初の行為の時から半年以内に出願するものであれ
ば、例外的な扱いを受ける途も開かれています。しかし、初めからこれに頼るのは危
険です。

 やむを得ず例外的な扱いに頼って出願なさるときであって、ご本人の行為によって
世の中に知られたこととなった場合には、出願する時に、特許法上の例外規定の適用
を受ける旨を願書に表示するとともに、世の中に知られたこととなる事実があったこ
とを証する証明書を、出願日から30日以内に特許庁へ提出する必要があります。

 誰にでも教えて上げたいという、発明家さんの善良さは、道徳的には褒められるべ
きことですが、産業の発達を促すという特許法の精神からは、褒められるべきことで
はありません。特許出願をお考えなのであれば、少しばかり心を鬼になさる必要があ
ります。晴れて特許出願が完了して、その翌朝にお目覚めの後に、元の「善人」にお
戻りになるのが宜しいのでは、と考えます。

 法律上は、特許出願が完了した時刻(時、分)の後であれば、いくらしゃべっても
OK、ということになりますが、後日に問題が起こったときに、時刻を立証するのは
困難ですので、翌日になるまでは鬼のままでいらっしゃる必要があります。また、暦
日の立証のできないようなやり方では、出願日後間もなくご発明内容をお話になるこ
とも、控えるべきだと考えます。


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